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伏見康生のコラム
NO.235:牛の病気―頭部―(10)

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2013年5月29日

10、鼻環フレグモーネ

原因と病態
鼻環の装着時にできた傷から真皮や脂肪織に広く細菌感染が起こる、鼻腔、時に吻部周囲の感染症。

症状
鼻孔から膿と鼻汁と血餅を混じたゲル状の塊を排出し、鼻息は荒く狭窄音を生じる。
時に発熱する。
鼻腔粘膜は発赤・腫脹し、表面に白い膿疱がたくさん出来る。
鼻腔粘膜、吻部周囲(鼻鏡、唇、顎)の境界不明瞭な腫脹を示す。
重症例では、頬、眼球付近にまで皮下膿瘍を形成することもある。

農家さんができる処置
鼻環装着に伴う刺創からの細菌感染が原因なので、装着前に鼻腔を清拭してイソジンをかけ、装着後も数日間イソジンを吹きかけるという予防策を講じることで発症を防ぐことが出来る。
また、鼻環装着後に異常出血や化膿が見られる場合には速やかに獣医師に診療を依頼する。
多くの場合は、強い鼻塞音(狭窄音を伴う鼻息)と異常な膿性鼻汁がきっかけとなり発見されるので、その場合には速やかに獣医師に診療を依頼する。

獣医師の治療
まず衛生的観点とその後の処置のしやすさから鼻環を切って外す。この時、鼻環の孔から壊死した組織が取れることもあるため、ペアンを使いガーゼで孔を綺麗に拭く。
ガーゼを使って鼻腔粘膜の膿疱を擦って排膿出来るものは排膿させ(大きな膿瘍という感じではないのであまり排膿しないことが多い)、プレッシャースプレーを使って鼻腔内をよく洗浄する。
ペニシリン系、セフェム系等の抗生物質とステロイドを全身投与する。
(感染症に対してステロイドを用いるのは常法ではないが、炎症による悪影響がステロイドの副作用によるデメリットよりも大きい場合には使う方がよい。このようなフレグモーネの際には炎症の連鎖に歯止めを掛けることができるうえ、鼻腔の狭窄が軽減し呼吸が楽になる。)
数日の投薬により症状は軽快するが、フレグモーネ特有のしぶとさにより完治には時間がかかるため、強めに押す(治療を続ける)のがよい。

予後
完治後以後の飼養に問題はない。
鼻環の再装着も可能。

NO.235:牛の病気―頭部―(10)
写真1
鼻腔粘膜の腫脹、多発性膿疱

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写真2
鼻腔粘膜の腫脹、多発性膿疱

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写真3
鼻腔粘膜の腫脹、多発性膿疱

NO.235:牛の病気―頭部―(10)
写真4
比較、正常な鼻腔粘膜

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写真5
1の牛の顔貌(鼻環は除去した)
吻部が腫脹しているのが分かる

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写真6
3の牛より排出された血膿様鼻汁
5cm超の大きさ

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写真7
3の牛より排出された血膿様鼻汁

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