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伏見康生のコラム
NO.226:黒毛和牛の第四胃変位(2)

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2013年3月27日

普通の黒毛和種繁殖牛も同じように周産期に(分娩後に)第四胃変位が起こるかというと・・・・

・・・まっっっっったく起こりません。

乳牛では体質的な問題もあるのでしょうが、前述のように分娩と泌乳、DMI、Caの低下・・・すさまじく追い詰められて第四胃変位は起こっています。そもそも黒毛母牛はそんなに追い込まれたりしませんので、通常考えられるような、普通のエサやり普通の周産期管理をしている限りはまず大丈夫です。起こった場合にはよほど母牛の飼料管理を粗末にしていたり、重篤な基礎疾患があるはずです。

私たちが遭遇する黒毛和牛の第四胃変位は、繁殖母牛ではなく・・・肥育前期の牛達です。

これまで遭遇した例は
① 長期の肺炎を患い痩せ細っていた牛
② 長い船舶輸送(離島から導入)ののちにすぐに感冒にかかった牛
③ 粗飼料不足から長期的にルーメンが痛んでしまった牛(あ!これはホル肥育だった・・・)
などです。

共通しているのは、極度にDMIが低下し負のエネルギーバランスに追い込まれていたということです。条件が揃えば時には起こるようです。それぞれ高食を流したり、OPEしたり、ガス抜きしてローリングするなどの処置で治りました。

ということで、あんまり重要な病気でもないですし遭遇頻度も低いですが、かつて大御所の先生に「黒毛和牛に第四胃変位は起こるんでしょうか?」「・・・ぁあんっ!?起こらん!!」と一刀両断にされていたテーマへのささやかなオピニオンとして、そして全国の黒毛和牛を診察している同胞たちへのプチ情報の意味でコラムにしてみました(笑)

ち・な・み・に・・・
第四胃変位と間違いやすいのですが、第一胃からPS(有響性金属音、ピングサウンド)が聞こえる時があります。それは、「急性期のルーメンアシドーシス」と「完全にルーメンが空っぽの時」です。前者は全身から急激に水分が引き込まれるため、後者はルーメンマット等の固形物が存在しないため、綺麗にルーメン内に液面ができて「キンキン」聞こえてしまうので、鑑別がとても重要です。

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