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松本大策のコラム
放牧について考える

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2013年3月4日

 今回のコラムでは、母牛や乳牛の放牧についてみなさんと一緒に考えてみたいと思います。

 放牧というと、一般の方は「広々とした草原でのんびり草をはんで、牛さんにも環境にも優しくていいわね。」みたいな印象をお持ちだと思います。
 しかしながら、放牧が本当に牛さんにも環境にも優しいのかどうかは、少し考えてみなければなりません。

 まず、食べ物の点で考えてみましょう。放牧地1ヘクタール当たりでまかなえる粗飼料の量は、いったい何頭分ほどだと思いますか?
 じつは意外にすくなく、通年放牧の場合だと、たった一頭分しかまかなえないのです。もちろん、それぞれの土地の地力や日照、降雨量などでの変動はあるでしょうから、あくまで一般論のお話しです。
 まあ、餌の方は、放牧地に飼槽でも置いて給餌することもできるでしょう。

 それでは、次に放牧地に与えるダメージを考えてみましょう。牛さんは、放牧地でうんちもオシッコもしますよね?それらに含まれるアンモニアや未消化のタンパク質などの窒素分は、土壌中のバクテリアの働きで分解されます。しかし、その分解能力にも限界があります。
 通常、1ヘクタール当たりで分解できる窒素分は、牛さん1.7頭程度と言われています。こちらも思ったより少ない、というのが正直な感想ではないかと思います。「そんなんじゃ、放牧地がどれだけ必要なんだ?」と言われそうですね。
 でも、この密度を越えた頭数を放牧してしまうと、分解できなかった窒素分で、土壌汚染が進みます。
 ゆくゆくは、放牧地の草に含まれる硝酸塩濃度も上昇し、牛さんにも硝酸塩中毒が現れたり、繁殖障害が現れたりします。

 他にも、放牧地で使うより採草地として利用した方が丈の高い草を作れるとか、放牧事故の問題とかを考慮して、放牧地に安全な余裕のない農場では、運動場と採草地に分けての利用をお勧めすることもあります。

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