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NO.217:牛の病気―頭部―(4) |
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2013年1月16日
4、前頭骨骨折
原因
角への強い衝撃により前頭骨を骨折する。
角鞘脱と同様に、柵から勢いよく頭部を引っ込めた時に強打し骨折に至ることが多い。
特に角が成長した成牛での発生が多い。これは角の小さい牛では鞘との付着が弱く激突時に鞘が抜けることで衝撃を吸収しているが、角が大きい牛ではは鞘が抜け難いうえ、テコの原理で大きな力が前頭骨にかかってしまうことが原因と思われる。
症状
前者2つと異なり外観上の出血などを認めることはなく、軽度骨折であれば気がつかないことがある。食欲不振の稟告で診察し、同疾患が見つかることもある。
多くの場合は最初に片側の鼻出血が発見され、精査すると同側角の動揺を認め骨折に気がつくことが多い。
重症牛では、対側と比べ明らかに角の角度が変わるため発見が容易となる。その場合は角基部に出血を伴う死腔ができるため細菌感染による大きなアブセスを形成することがある。
重症であれば長く強い疼痛を伴い、深刻な食欲の低下が見られることがある。
農家さんができる処置
初発見時には液剤の冷湿布を塗布する。
地味な骨折をしている場合には発見が難しいが、鼻出血を見つけた場合には同疾患の可能性が高く、いち早く獣医師に診療を依頼する。
骨折の確認には角の基部に手を軽く乗せ、もう一方の手で角の先端部をトントンと叩き、基部に伝わる振動の違いを左右で比較することで容易に判断できる。
受傷直後、牛によっては頭部への衝撃を恐れ餌槽へ顔を出したがらない子もいるため、必要に応じて牛房内でも餌を食べられるようにする。
また骨折の治癒には1月以上を要するため、隔離飼育を行うことも検討する。
獣医師の治療
初発見時には冷湿布を塗布し、ペイン・コントロールのため、ステロイド、NSAIDsを積極的に使用することで治癒が早まる。
同時に免疫抑制への対応と二次感染の防止にアンピシリン等の抗生物質を投与する。
食欲の回復を目安に投薬を中止する。
骨折によるズレが激しく、死腔にアブセスを形成した場合にはアブセスの洗浄、骨折の治癒共に困難となるため、角を含めた骨折片の摘出も考慮する。
予後
見た目にわからない程度の軽度な骨折であった場合には1ヶ月ほどで治癒し、以後の生産性にも影響はない。
重度骨折であった場合治癒までの期間は程度に応じて延び、その間の飼料摂取量、増体に影響が出る可能性が高い。
アブセスを形成し骨折した前頭骨片を摘出した場合には完全に治癒するまで2月以上を要し、その間の治療ストレスも飼料摂取量、増体に負の影響を与える。

前頭骨骨折をし鼻出血している牛(鼻はもともと切れている)

打診による骨折の診断

角と骨折片を除去した後、4週以上経過し治癒に向かっている牛
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