前編
子牛を丈夫に育てるコツの一つは「病気させない」ということです。僕の見ている限り、子牛が丈夫に育たない農場では、肺炎(場合によってはさほど重症でない「隠れ肺炎」のこともあります)が多発しているケースがほとんどなのです。ですからこれまでのお話しでも、貧血を防いだり寄生虫を防いだり、と病気予防に大きく文章を割いてきたのです。 子牛のお話しも、育成に入るところにさしかかりました。この時期は、肺炎がもっとも増えてくる時期です。ここで、肺炎の予防のためのお話しを一緒に考えてみましょう。 子牛は、群れを作るときと、群れから隔離されるときに大きなストレスを受けます。ですから、育成マスに移す前にワクチネーションを済ませておきましょう、というお話しをしたのです。でも、時には「忘れちゃったー」なんてことがあると思いますし、ワクチン以外でも肺炎を防ぐ処置はいくつかありますから、頭の隅っこに止めておくと、いざというときに役に立つんじゃないかと思います。 まず、今回は肺炎の予防として群編成時や周辺の農場で肺炎が流行したときには「最初にミコチルを打つ」という事を考えておきましょう。ミコチル(ゼノアック)というのは抗生物質の一種ですが、ときどき「必殺技!」みたいに思われている場合があるので、敢えてここでふれておきます。ミコチルの特徴は、抗菌力よりも「肺炎を悪化させない働きが持続する」という点にあるのです。その一つは、ばい菌に感染した細胞が、破裂してばい菌をまき散らすネクロージスという現象を防いで、ばい菌ごと細胞をぎゅっと縮めて白血球に食べさせてしまう、アポトーシス(細胞の自然死)を誘導すること。ばい菌を周辺の細胞にまき散らさないだけでもずいぶん肺炎の悪化を防ぐことができます。 もう一つが、ばい菌が感染したときに、免疫(ばい菌をやっつける働き)が暴走すると、自分の体まで破壊してしまいます。それを防ぐのです。免疫の暴走は、白血球自身が作るLTB4という細胞ホルモンで起こります。ミコチルは、LTB4をブロックしてくれるのです。ですから、せっかくミコチルを使うなら、肺炎を悪化させる前、つまり最初に使うのが効果的なのです。 |