後編
肺炎の予防戦略として、今回は亜鉛とビタミンAのお話からいたしましょう。実は、この二つの栄養素は「体の表面(上皮細胞)を護る」働きがあるのです。体の表面というと、表に見えている皮膚のことが真っ先に思い浮かぶでしょうが、実は哺乳動物の体というのは、「マカロニ」みたいな管なのです。栄養素の消化・吸収を効率的にするために、口から肛門までの管が通っていて、その中は外界なのです。マカロニと同じでしょ?
消化のために胃袋の部分がふくらんでいて、吸収面積を増やすために腸がグニャグニャと曲がりくねって肛門まで外界を取り込んでいる。ですから、この粘膜も外界とふれる「表面(上皮細胞)」なのです。
肺だってそうですね。外界の酸素を効率よく取り込むために、口から体内にふくらんでいった器官ですから、その粘膜も「表面(上皮)」です。同様に子宮だって、外界に卵を産むより安全な体内に外界を取り込んで、そこに卵を産み付けるための器官です。ですから子宮粘膜も「表面(上皮)」なんです。
亜鉛とビタミンAは、これらの「上皮細胞」を護り、その機能を活性化する働きがあります。もし亜鉛やビタミンAが不足すると、頭にフケがでます。これは「不全角化」といって通常、表皮の表面は細胞の核が消失して重なり角化します。しかし亜鉛やビタミンAが不足すると、核が残ったままになってボロボロとはがれ落ちやすくなるのです。これがフケです。昔、フケ取りシャンプーのメリットというのがありました。これも、シャンプーにジンクピリチオンという亜鉛の化合物を混ぜて、フケを防止していたのです。
さて、ここでもし亜鉛やビタミンAが不足したとき、他の部分はどうなるのでしょう?言葉はいろいろあるのですが、消化器粘膜や肺の粘膜、子宮の粘膜にもフケができたようになります(パラケラトーシスといいます)。そうなると、ばい菌が進入しやすくなって肺炎や腸炎、子宮内膜炎や第一胃粘膜からばい菌が進入して門脈という血管を通り、肝臓に流れて毛細血管に引っかかって膿の固まりを作る「肝膿瘍」になったりします。子宮だって、せっかく赤ちゃんが粘膜にしがみついたのに、ぽろっと粘膜がはがれてしまっては着床できません。
こういったわけで、肺炎を防ぐだけでなく、腸炎、肝膿瘍、受胎率向上、子宮内膜炎などの防止に、ビタミンAと亜鉛は大切な働きをするのです。