(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
伏見康生のコラム
NO.209:薬剤関連性腸疾患 その6

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2012年11月14日

 これらの治療と併せ、初日から大量の生菌剤投与行います。
 生菌剤の中にはいわゆる下痢止めの薬が含まれているものもありますが、感染が重度である発病初期の時点では、「毒素と菌体の排出を優先させる」「偽膜と糞便の塊による腸閉塞を避ける」という観点から、収斂作用、止瀉作用の強い薬の使用は避けるべきとされています。
 この件に関しては現場において自分なりに意識を持って観察し検証を行っておりますが、安直に「止瀉薬はだめだ」と考えるのではなく、患畜の全身状態、病態を的確に判断し適切な薬剤使用をしていくことが求められると思います。それはステロイドの使用に関しても同じです。
 個人的には腸からの分泌、出血が著しい時には初回のみステロイドを投与し、十分な全身状態の改善が見られた時から止瀉作用、収斂作用のある薬の投与も行います。

 全身状態の改善後も流泥下痢や軟便はなかなか治りませんので心配になってついつい抗菌薬を投与しがちですが、それこそ過剰な抗生物質の投与は薬剤関連性腸疾患を引き起こしかねません。
 この時点の軟便や下痢は多くの場合、細菌が原因ではなく腸粘膜のただれが糞便中の水分の吸収不全と分泌を起こしているためのものですので、腸粘膜のターンオーバーまで長く時間はかかりますが根気よく生菌剤を投与すべきです。またトラネキサム酸の投与も有効です。

といったところが私の治療法です。

 2回の割込みコラムもはさみ、コラムのテーマも「薬剤関連性腸疾患」からいつの間にか「偽膜性腸炎の治療」にすり替わってしまいましたが、以上で完結です。
 偽膜はクロストリジウムにより作られ、悪化します。次回出血性腸炎に出会った場合には「初期にクロストリジウムを徹底的に叩く」治療を実践してみてください。

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