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松本大策のコラム
「子牛を丈夫に育てる その7〜お母さんからのプレゼント(2)〜」

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2009年11月16日

 初乳には、いろんな種類のバイ菌やウイルスをやっつける「免疫抗体」が含まれています。しかしここで、初乳給与についていくつか注意してあげなければならないことがあるのです。まず、免疫抗体の正体は、γグロブリンという大型のタンパク質です。タンパク質は、分子量が大きい(粒がでかい)ので、通常はそのままでは吸収できませんから、「消化」という作業で「アミノ酸」という小さなつぶつぶに分解して吸収するのですね。「それじゃあ、せっかく免疫が入った初乳を飲ませてもムダじゃん」って言われそうですね。でもご安心下さい。生まれたばかりの赤ちゃんの腸には、タンパク質のような大きなつぶつぶを、そのまま丸飲みして吸収する「ピノサイトーシス(飲作用)」という働きがあるのです。生まれたての赤ちゃんは、このピノサイトーシスによって、お母さんの免疫抗体を丸のまま吸収して血液の仲間で取り込んで、バイ菌から身を護るのです。ただし、ここで注意しなければならない点がいくつかあります。まず、ピノサイトーシスは、生まれた時点から徐々に消えていきますから、なるだけ生まれたら早い時間で初乳を与える必要があるのです。昔の本には、生後24時間以内とか書かれていましたが、最近では10時間以内とされています。その上、ピノサイトーシスは、大きく生まれた子牛ほど消失する時間が早いので、シェパードではなるだけ生後4時間以内に、とお勧めしています。それも、「最初の一口は、出来るだけ生まれてすぐに」とお勧めしています。
 どうしてかって言うと、牛小屋は無菌室じゃありませんから、いろんなバイ菌がいます。初乳を飲ませるより早くこれらのバイ菌が子牛の口から消化管内に入ってしまうとどうなるでしょう。一般にバイ菌は腸の表面にくっついただけで下痢や血便などの病気を起こしてしまいます。しかし、生まれたばかりの子牛のピノサイトーシスの働きで、バイ菌やバイ菌の毒素が子牛の体の中に取り込まれて血液中で増殖したらどうなるのか?子牛は、まだ免疫抗体を持っていませんから、バイ菌の好き放題にやられてしまいます。せっかっく元気で生まれた子牛が翌朝は冷たくなってしまっている。いわゆる敗血症というヤツです。これを防ぐために、一口でもいいから初乳を出来るだけ早く子牛に飲ませていただきたいのです。そうしたら、初乳中の免疫抗体が腸の表面をカバーして子牛を護ってくれますからね。

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