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松本大策のコラム
「子牛を丈夫に育てる その6〜お母さんからのプレゼント(1)〜」

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2009年11月9日


 さて、子牛も無事生まれて呼吸も落ち着きました。次にやらなくちゃいけないのは、大切な「初乳」の給与です。
 みなさんは「免疫」という言葉をご存じでしょう。かんたんに言うと「からだをバイ菌から護る仕組み」のことです。もう少し詳しく言うと、「自分と自分じゃないものを見分ける力」です。バイ菌は自分じゃないからやっつけちゃうんですね。臓器移植などで、組織型が一致しないといけない、というのも免疫が強く働いて「自分のものじゃない他人の臓器」を排除してしまうからです。ちなみに臓器移植をすると、免疫を抑えるために「免疫抑制剤」というものを使います。これは体の中で作られる「副腎皮質ホルモン」と同じものです。
 前置きが長くなりましたが、免疫はいろいろな仕組みが協力して働いています。この中に、「免疫抗体」というものがあります。免疫抗体というのは、いろんなバイ菌ごとに作られた「オーダーメイドの檻」みたいなものです。バイ菌やウイルスといっても、それぞれに形や大きさが違うので、ぴったし合った檻に閉じこめるには、それぞれのバイ菌やウイルスに応じてオーダーメイドで檻を作るしかないのです。今、インフルエンザワクチンが話題になっていますが、みなさんもいろんなワクチンを打つでしょ?ワクチンというのは、ある特定のウイルスやバイ菌に対する「免疫抗体」つまり専用の檻を身体に作らせるための注射なのです。ですから、インフルエンザワクチンは、インフルエンザしか防ぐことが出来ませんし、日本脳炎のワクチンは日本脳炎しか防ぐことが出来ないのです。
 人間は、進化が進んでいるので、お母さんはお腹の中でいろんな「免疫抗体」を赤ちゃんに渡してあげることが出来ます。つまり進化した胎盤を通じていろんな免疫抗体も受け渡しできるのです。しかし、牛さんは胎盤の構造が人間ほど進化していないので、お腹の中で赤ちゃんに免疫抗体を渡すことは出来ません。
 それでは赤ちゃんはバイ菌にやられてしまいます。そこで牛さんの場合は、免疫抗体が十分に含まれた「初乳」を通じて赤ちゃんに免疫抗体をプレゼントするわけです。
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