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池田哲平のコラム
尿石症を考える(14)

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2012年10月5日

 子牛を捕まえて尻尾をあげて外陰部を見てみると、陰毛には結石が付いていて、ところどころに膿や壊死した粘膜上皮の様なものも見えました。

 このメス子牛は膀胱炎と尿石症を併発していたのです。

 肥育牛の尿石症の発生メカニズムはこのシリーズの中で別に詳しく紹介しますが、今回のケースは肥育牛に見られる典型的な尿石症ではなく、膀胱炎に起因する尿石症だと思われます。牛に膀胱炎を起こす細菌(Corynebacteirum属菌)は尿中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する“ウレアーゼ”と呼ばれる酵素を産生します。膀胱内でウレアーゼによって作られたアンモニアが尿のpHを上昇させ、尿がアルカリ性に傾くことによって、酸性環境では尿中に溶けていた結石の成分が結晶化してきて、尿結石を形成したのです。

 排尿時の激しい疼痛(排尿痛)が尿結石による粘膜刺激や排尿障害によるものなのか、膀胱炎による膀胱内の炎症性疼痛によるものなのかはっきりとは区別できませんが、このメス子牛は痛みによって走って暴れ回ったことで、呼吸器の病気の時の様に呼吸が速くなっていたのです。

 治療は、尿道カテーテルで排尿したのち、抗生物質の全身投与と経口の尿石症治療薬を1週間ほど行ったら良くなりました。

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