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池田哲平のコラム
尿石症を考える(10)

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2012年9月7日

11)牛が立たない
 農家さんからの電話で往診依頼があった時、その内容によって緊急度を判断しますが、この稟告も非常に緊急性が高い時が多いです。
牛さんが立たない場合、起立欲の有無(自分で立ちたいのかどうか)は非常に重要なポイントです。「立ちたいけど立てない」のと「立ちたくなくて立たない」のでは意味合いが違ってきます。また、立たない時の姿勢に関しても大切で、横倒しになっている状態(横臥)と犬や猫の“伏せ”のような状態(伏臥または胸骨臥、私は“牛が座っている”と表現しますが、一般的?)ではまた牛さんの状態が違います。

 ここではこれらの詳しい内容や症例などは挙げませんが、尿石症による尿閉は非常に強い腹痛を伴い、このために牛さんが立ちたがらない事があります。多くの場合は胸骨臥の状態ですが、声をかけたり軽くたたいたくらいでは全く立つ気がない時もあります。この状態のままでは、立っている時と違って聴診できる範囲や目で見られる範囲が限られるので正確な診察をするのが難しい時もありますが、やはり直腸検査は大きな武器になる検査の一つです。膀胱の膨満が確認できれば、尿閉による腹痛から起立したがらないというのが分かります。たまに、直腸検査を嫌がることで起立するという牛さんもいます。

 何はともあれ、起立不能の牛さんに出くわした場合、四肢の運動器疾患(骨折や脱臼)や代謝性疾患(肝炎やVutA欠乏による足腫れ、ルーメンアシドーシス、乳牛では乳熱やケトーシス)だけではなく、尿石症も頭の片隅に入れておくべき疾患だと思います。

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