2012年9月4日 今年の4月、宮城県角田市の堀米荘一さん、薫さん夫妻の農場を訪ねました。 ちょうどおコメの種まきの時期で、近隣の和牛農家の森谷さんと共同で作業されていました。品種は「まなむすめ」や「リーフスター」などの飼料用米。隣の牛舎ではお産を控えた母牛が、もみのついた稲ワラを静かに食んでいました。宮城県は日本有数の飼料用ワラの産地。「うまいコメのある所に、おいしい牛がいる」のが定説です。ところが…… 震災直後、停電で給水ポンプが止まり、牛舎では四苦八苦。ガソリンはなくなる、飼料はどんどん減るばかり。石巻の飼料基地が津波で被災して、いつ届くのかわからない。そんな状況の中、田んぼに残っていたワラを迷わず牛たちに与えました。 ところが7月に入り、セシウムに汚染された牛肉が見つかり、その原因が稲ワラであることが発覚。出荷停止の状況が続きます。「出荷予定の牛は出せない。子牛は生まれる。牛舎が満員になって、お産する場所もないくらいでした」と荘一さん。その頃東京では、「牛肉はアブナイ」的な情報ばかり。東北だけでなく全国の牛肉が、売れなくなっていました。 その後、被害を被った農家には、東電から補償が降りていますが、その内実は生産者の損失や痛手をちゃんと埋め合わせるものではないようです。「補償の上限は1頭90万円。いい牛を作る人ほど損をする」。そんな悪循環も生まれている。 壊れた原発から大量に放出された放射性物質は、コメと牛と人が築いてきた循環サイクルを分断しただけでなく、「いいもの作って、食べる人の健康としあわせに貢献している」。そんな生産者のプライドをズタズタにしてしまった。どこの産地に行ってもそう感じます。 たしかに公的な補償と支援は必要。でも、それだけでなく「私たちの牛肉を、料理人の方たちにおいしい料理にしてほしい。それが生産者や消費者、みんなの気持ちをいい方向に変えるはず」と薫さん。料理の専門誌の取材だったので、こんなメッセージをいただきました。 薫さんは、牛飼いの妻であると同時に、児童文学作家でもあります。その作品がどんだけすばらしいか。こちらのサイトに書いたので、ご覧ください。 堀米さんの牧場の片隅には、去年の春集めたワラが、今なおラップで包まれ保管されています。ガイガーカウンターを近づけると約6μSv/h。本来行政が責任を持って処分しなければならないのに、移動禁止の状態まま。震災はまだ終っていません。 宮城県産の牛は、すべて放射性物質の検査を受けていて、流通している牛肉はすべてND。いま東北で、最も検査頻度の高い食材であることはたしかです。そこをもっとみんなに知ってほしい。 震災前の10年間、マスコミが悪者探しに徹するあまり、消費者は、生産者を「疑うように、疑うように」教育されてきた感があります。震災を起点に「信じるように、信じるように」方向を変えるには、どうすればいいのだろう? いつもそんなこと考えながら旅しています。 (つづく) 三好かやの |