(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
蓮沼浩のコラム
第871話:ナフサの影響

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2026年4月7日

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ついにはじまってきたなあ・・・

昨日、ゴム手袋の入荷ができないと業者さんからの連絡。入荷時期も未定とのこと。農家さんでもラップの入荷が厳しいとの話を聞きます。今注文しても8月になるとの話もあり、それも入ってくるかわからないとのこと。エンジンオイルも手に入らなくなってきたとの話も。

小生、毎日のように中東情勢を見ています。正直なところ、鹿児島の現場で牛さんを診ている鼻糞獣医師が中東のことを考えても、直接何かができるわけではありません。ただし非常に重要なことなので気になって仕方がないのです。一つだけ確実に言えることがあります。“ナフサが止まれば、日本の畜産に滅茶苦茶大きな影響がでる“。この一点です。まあ、畜産だけでなく、日本中のあらゆるところでメガトン級の影響がでるのですが・・・。

ナフサとは原油から精製される成分のひとつであり、石油化学産業の基礎原料です。原油を蒸留すると様々な成分に分かれますが、その中でナフサはプラスチック製品の出発点となる極めて重要な存在です。一般的に、原油1バレルから得られるナフサの割合はおよそ10〜30%程度とされており、原油供給が不安定になれば、この時点で化学産業の原料自体が減少します。さらに日本はナフサの多くを輸入に依存しているため、中東情勢の影響を極めて受けやすい構造にあります。

重要なのは、ナフサはそのまま使われるものではなく、分解されてエチレンやプロピレン、ブタジエン、ベンゼンといった基礎化学品へと変換される点です。これらはさらに加工され、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニルといった樹脂となり、最終的には飼料袋、包装資材、フレコンバッグ、サイレージ用ラップ、ホース、医療資材など、現場で日常的に使っている資材へと姿を変えます。つまりナフサは畜産資材そのものではありませんが、ほぼすべての資材の“源流”にある存在です。普段は意識されませんが、なくなれば確実に現場機能が崩れる、まさに空気のような存在と言えます。

ではナフサが不足すると何が起こるのか。影響は段階的に現れます。非常にざっくりとした予測ですが、数週間から1か月でプラスチック製品の価格が上昇し始めます。今はここのフェーズでしょうか。次に1〜2か月で納期遅延が発生し、「お金を出しても来ない」状態になります。そして2〜3か月後には市場から資材そのものが消え始めます。5月ごろから雲行きが怪しくなってくることは間違いありません。ここまで進むと、「飼料はあるのに袋がない」「粗飼料はあるのにラップできない」「薬はあるのに投与資材がない」といった、本質的な機能停止が現場で徐々に起こりはじめます。

肉用牛経営においては、この影響は極めて具体的です。まず飼料供給は包装資材の不足によって不安定化します。サイレージはラップ不足により方向転換が避けられず、粗飼料確保が困難になります。衛生管理も使い捨て資材の不足により衛生レベルが下がります。さらにホースや配管などの部材が入手できなくなることで、設備トラブルが長期化し、経営の基盤そのものが揺らぎます。他にも山ほど色々な問題は出てくるでしょう。

ここで重要なのは、この問題の本質は単なるコスト上昇ではないという点です。価格が上がるだけであれば、まだ経営判断で対応できます。しかし、物そのものが存在しない場合、選択肢が消えます。畜産経営において最も危険なのは「選べない状態」に追い込まれることです。

現場として何をすべきか。まずは資材の在庫を見える化し、現物の確保を意識することです。次に、資材依存度を下げるための代替手段を検討すること。さらに、使用量の最適化によって無駄を削減し、サプライヤーも複線化しておく必要があります。これらは地味な対応ですが、最も現実的なリスク管理です。すでに多くの農家さんや農場で取り組んでいます。

ナフサという言葉は、現場ではほとんど意識されません。しかし、その影響は飼料価格以上に深く、そして静かに経営を締め上げてきます。戦争は遠くで起きていますが、その影響は資材という形で確実に牛舎まで届きます。牛さんだけでなく、それを支えている構造全体に目を向ける必要があります。

とは言っても・・・

あまりにもスケールが大きい話なので途方にくれます。小生が診療の世界でできることと言ったら、今後は「Reuse(リユース)」つまり、再利用をどこまで出来るかを考えることぐらい。直腸検査手袋を洗って消毒してリユース?事務所の前に多くのプラスチック製品が干してある状況もあるかもしれない・・・。シュールな光景ですね。

「砂上の楼閣」ならぬ「油状の楼閣」。
現代社会はまさにこんな感じであることをしみじみと感じます。

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