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蓮沼浩のコラム
第860話:和牛頭数減少とF1再評価の時代?

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2026年1月20日

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―「高級」から「ちょうどよさ」への価値転換―

先日、ある農家さんとお話しする中で、和牛の頭数について話題になりました。その農家さんは「和牛の出荷頭数は、今後、確実に前年を大きく下回っていく」と断言されていました。確かに、和牛の飼養頭数が減少すれば、その数年後に枝肉として出荷される肥育牛が減少することは避けられません。実際、農畜産業振興機構(ALIC)の見通しによれば、2025年10月〜2026年3月の和牛と畜頭数は前年同期比▲3.5%と予測されています。これは明確な「調整局面」への移行を示す数値です。しかし、現場感覚としては「▲3.5%では済まないのではないか」という声も多く聞かれます。その根拠は、和牛子牛の出生頭数の減少です。近年、和牛繁殖農家さんの高齢化、後継者不足、飼料価格の高騰などを背景に、出生頭数は明確な減少トレンドにあります。出生から出荷まで約28〜30か月を要する和牛では、現在の子牛頭数=2〜3年後の出荷頭数を意味します。この時間差を考慮すると、2026年以降、と畜頭数の減少幅がさらに拡大する可能性は十分に考えられます。

一方で、牛肉を取り巻く消費者の価値観も大きく変化しています。かつては「霜降りが多い=高級でおいしい」という評価軸が主流でしたが、現在はそれだけでは選ばれにくくなっています。近年の消費動向を俯瞰すると、消費者が重視しているのは次のような点です。
 • 脂が多すぎず、食後に胃もたれしないこと。
 • 赤身のうま味をしっかり感じられること。
 • 日常の食生活の中で、無理なく食べ続けられる価格帯。
 • 味・量・使いやすさに対するコストパフォーマンス(納得感)。
 • 国産であることに加え、飼養管理・トレーサビリティ・環境配慮が説明できる透明性。
つまり、牛肉は「特別な嗜好品」から、「健康志向・高タンパク志向を背景とした日常のタンパク源」へと位置づけが変わりつつあります。一度の感動よりも、「また買いたい」「また食べたい」という継続的な満足感が重視される時代に入ったともいえそうです。

こうした流れの中で、近年俄然注目度が高まっているのがF1(交雑種)になります。従来、F1はB2〜B3が主体というイメージが強くありました。しかし、血統的に優れた和牛種雄牛を用いたF1であれば、現在ではB4、場合によってはB5等級が十分に狙える事例も増えています。特に、受精卵移植によるF1生産が広がれば
 • 肉質はB3〜B4を中心とした「脂と赤身のバランス型」
 • 肥育期間は和牛より短く、23〜26か月程度
 • 飼料効率が高く、回転率が良い
 • 生産コストの抑制が可能
といった特性がより明確になります。さらに、現在の国際情勢を踏まえると、輸入牛肉価格の高騰も見逃せません。円安の長期化、世界的なインフレ、物流コストの上昇により、輸入牛肉は今後も価格上昇圧力を受け続ける可能性があります。輸入牛肉が「安価な選択肢」でなくなったとき、国産F1のポジションは相対的に大きく変わるでしょう。

和牛頭数の減少は、すでに統計と現場の両面から明らかになりつつあります。同時に、消費者が求める牛肉像は「高級」から「ちょうどよさ」へと確実にシフトしています。こうした需給と価値観の変化を総合的に考えると、受精卵で生産されるF1牛は、単なる和牛の代替ではなく、これからの牛肉市場を支える“主役候補”になり得る存在だとも考えられます。未来の事はもちろんわかりませんが、今後、F1をどのような設計思想で生産し、どのようなストーリーとともに市場に届けていくのか。その取り組み次第で、日本の牛肉市場の構造そのものが変わっていく可能性も十分にあるのではないでしょうか。和牛繁殖農家さんとお話しながら、このようなことを考えてしまいました。どうであれ、普通においしい牛肉を食べることができる平和な世界が続くことをひたすら願っております。
 
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