(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
蓮沼浩のコラム
第843話:先生、この粗飼料、大丈夫じゃろかい・・・

コラム一覧に戻る

2025年9月9日

***********************************************************
尿でわかる!マイコトキシン検査のご案内
詳細は こちら をご覧ください。
***********************************************************
 
 
牧場の片隅に積み上げられた粗飼料の山。その一部は黒ずみ、ところどころ白い粉をまとい、独特のカビ臭を放っています。収穫の遅れ、予想外の長雨、保管時の管理の甘さ。そのどれもが重なって、こうした現実を目の前に突きつけてきます。

Aさん「先生~~~これ牛に食わせてよかっじゃろかい?」

ハス「う~~~ん。ちょっとこれはね~~~~。やめたほうがいいような・・・」

Aさん「先生、そりゃ、やらん方がよかこた~わかっとっど。じゃいどん、そげんゆうても・・・どげんしたらよかけ」

農家さんにとって、この光景ほど心を重くするものはありません。何カ月もかけて手間と費用を注ぎ込んだ粗飼料が、きがついたら「リスク」と化してしまっています。

「こんなに積み上げた粗飼料、牛に食べさせられないなんて・・・」

「でも、全部廃棄する勇気もないし、新しい粗飼料を購入するゆとりはまったくない。カビ毒吸着剤を添加して少しずつ混ぜながら与えるしかないか・・・」

これは多くの農家さんが口に出せないまま胸に抱えている本音ではないでしょうか。与えれば牛の健康を害する可能性がある。しかし捨てれば経営的損失があまりにも大きい。まさに板挟みです。農場経営は日々の小さな判断の積み重ねです。ときにその判断が牛さんの命や収益に直結する。だからこそ、カビの生えた飼料を前にした決断は、農家さんに重くのしかかるのです。

カビの問題は単に「見た目が悪い」ということにとどまりません。アフラトキシン、ゼアラレノン、デオキシニバレノール(DON)といったマイコトキシンは、目視や臭いだけでは判別できません。しかもその影響は「急性中毒」のように分かりやすい形で出るとは限りません。子牛の下痢、乳量の微妙な減少、繁殖成績の低下、枝肉成績の悪化などなど。こうした「じわじわとしたダメージ」として現れ、気づいたときには経営全体を蝕んでいることも少なくありません。
 
農家さんの心の声はこんな感じです。
「もしこの飼料を牛に与えて病気や流産、そして繁殖成績の悪化となったら、損失はこの飼料の山よりもっと大きくなるよなあ・・・」
「昔はこんなに暑くなかったし、湿気もなかった。環境は変わっているのに、飼料管理をどうすることもできない自分が情けない」

農業の厳しさは、「たった数日の判断ミスで大きな損失につながる」ということになります。収穫のタイミングを誤っただけで、天候に恵まれなかっただけで、あるいはビニールシートをほんの少し甘くかけただけで、何十トンもの粗飼料が台無しになってしまう。

「このカビの山がただの“損失”じゃなく、次の年の学びになると信じたい」
そんな祈りに似た気持ちを抱きながら、農家さんは前に進むしかありません。ただし、学びにするためには「何が起こったのか」を冷静に振り返る必要があります。保管環境の湿度管理、通気性、切り出し方法、そして給与時の混合割合。さらに「牛が実際にカビ毒を摂取しているのかどうか」を確認する科学的な手段が欠かせません。

ここで注目されるのが、何度も紹介している尿中カビ毒検査になります。飼料検査では「餌に含まれる可能性」を調べることはできても、それが牛の体内にどれだけ取り込まれているかまでは分かりません。尿検査であれば、カビ毒の摂取実態を“見える化”することができます。

「カビ混じりの餌を少し与えてしまったが、大丈夫だろうか」
「牛の下痢や繁殖障害は、もしかしてカビ毒のせいではないか」

そうしたモヤモヤを解消する一つの手段が、尿中カビ毒検査になります。もちろん検査だけですべての問題が解決するわけではありません。しかし、原因を切り分けることができれば、次の一手を考える余地が生まれます。

カビの生えた粗飼料を前にしたとき、農家さんは経済的損失と牛の健康のはざまで苦しみます。そこには「与えるリスク」と「捨てるリスク」の両方が存在し、どちらも大きな痛みを伴います。だからこそ、私たちにできるのは「現実から目を背けないこと」と「科学的な手段で状況を確認すること」になります。

カビに汚染された飼料を完全にゼロにすることは難しいです。しかし、その影響を把握し、最小化することは可能です。

カビの生えた粗飼料の山を前に胃が痛む夜が少しでも減りますよ~~~に。

検査や管理の工夫を通して、“見えない敵”と正しく向き合うことが、これからの牧場経営には不可欠だと思います。
 
 
***********************************************************
今週の動画
道具紹介シリーズ~魅惑のメイドインジャパン編~

|