2025年8月19日 *********************************************************** 畜産農場の現場では「繁殖が思うようにいかない」「治療をしても同じ病気が繰り返される」「なんか様子がおかしい」といった声を耳にすることがあります。もちろん、その背景には様々な要因が複雑に絡んでいます。ただ、このような中、意外と見落とされがちな要素のひとつとして「マイコトキシン(カビ毒)」があります。 マイコトキシンとは、カビが生産する二次代謝産物の総称で、数百種類が知られています。代表的なものに、繁殖障害を引き起こすゼアラレノン(ZEN)、摂餌量低下や免疫抑制をもたらすデオキシニバレノール(DON)、さらにアフラトキシンやフモニシンなども挙げられます。これらは目に見えるカビの繁殖がなくても、飼料や粗飼料中に微量ながら存在していることが珍しくありません。 畜産現場でマイコトキシンが注目される理由の一つは、飼料事情にあります。日本の畜産は輸入穀物への依存度が極めて高く、とくにトウモロコシや大豆、小麦といった原料は海外での収穫・輸送・貯蔵の過程でカビ汚染を受けやすいとされています。また、国内でも自給粗飼料やサイレージの品質にばらつきがあり、気候変動による高温多湿環境がカビの増殖を助長しています。つまり、農場で給与される飼料は、常に「マイコトキシンに汚染されている可能性」を抱えているのです。 マイコトキシンの怖さは「急性毒性」よりもむしろ「慢性的で見えにくい影響」にあります。例えば牛では、採食量の微妙な減少や、受胎率低下といった形でじわじわと影響が現れます。豚は牛よりも感受性が高く、わずかな濃度でも流産、外陰部の腫脹といったような目に見える症状が出ることがあります。しかし、これらの症状を単に「飼養管理の問題」や「個体差」として片付けてしまい、根本原因であるカビ毒を疑わないまま放置されてしまっているのが現状です。 海外ではすでに、畜産におけるマイコトキシンのリスクが広く認識され、欧州連合(EU)や北米では飼料中マイコトキシンの基準値や監視体制が整備されています。これに対し日本では、牛や豚におけるマイコトキシン研究はまだ十分とはいえず、現場での対策も進んでいないのが実情です。カビ毒吸着剤をよくわからないけど、念の為に添加しているという状況がほとんどになるのではないでしょうか。農場ごとに「なぜか繁殖が安定しない」「発育が伸びない」といった曖昧な不調が積み重なり、結果として経済的損失が発生しているのです。 ここで重要となるのが「見えないリスクを見える化する」視点です。従来、飼料のカビ毒検査は飼料サンプルを分析する形で行われてきました。しかし、飼料のサンプルは一部にすぎず、実際に家畜が摂取したマイコトキシン量を正確に反映するものではありません。そのため、飼料が「安全」と判定されても、現場では繁殖障害や疾病が続くことがあります。こうしたギャップを埋める手段として注目されているのが「尿検査によるマイコトキシン評価」です。 尿検査は、動物が実際に摂取し代謝した結果を反映するため、「体内にどれだけ入ったか」を直接評価できる点で大きな意義があります。特に、繁殖障害や免疫力低下といった多因子性の問題では、尿中マイコトキシンの数値が「隠れた原因」を明らかにする重要な手がかりとなり得ます。加えて、農場単位での比較や、飼料変更前後のモニタリング、カビ毒吸着剤の効果の検証にも活用できるため、経営改善のための科学的指標としても高い価値を持ちます。 次回から色々とこのマイコトキシンに関してお話していきますね~! |