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戸田克樹のコラム
第483話「消毒薬は何がいい?③」

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2025年4月3日

前回は逆性石けん、塩素系、ヨード系消毒薬の特徴をおさらいしていきました。今回は残りのアルデヒド系、オルソ剤、消石灰についておさらいします。
④ アルデヒド系消毒薬
 細胞膜などのタンパク質と結合し、その構造を壊すことで消毒効果を発揮します。ほとんどすべての病原体に効果があるだけでなく、逆性石けんや塩素系消毒薬で太刀打ちできない芽胞菌にも効果があることに加え、消毒効果が有機物の影響も受けにくいことから最強の消毒薬と言えます。しかし、皮膚や粘膜への刺激性がかなり強いため取り扱いは要注意です。もちろん作業中は防護メガネやマスクの装着は必須ですし、牛体に対しての使用は不可です。また、散布した消毒薬を吸引すると、呼吸器症状を示す個体が一気に増えることもあります。牛群を管理している牛舎では使用できないので、基本的には出荷後や部屋移動後の空になった牛舎消毒で使用されます。
⑤ オルソ剤
 あまり耳馴染みがない消毒薬かもしれません。この消毒薬はハエの幼虫やコクシジウムのオーシスト(膜に覆われて卵状になっている時期の寄生虫)に強い効果があることが特徴です。有機物の影響を受けにくいことから、踏み込み消毒槽などで使用するにはもってこいかもしれません(ただし、紫外線に弱いため踏み込み消毒槽が屋外に設置されている場合は交換頻度を上げる必要があります)。特徴的なにおいがあり、粘膜刺激性も強いため生体への利用は不可ですが、コクシジウムの殺滅に効果がある唯一の消毒薬という強みは非常に大きいです。
⑥ 消石灰(水酸化カルシウム)
 消毒薬の中では結構身近な存在かもしれません。消石灰はその強いアルカリ性によってタンパク質変性をもたらすことで殺菌力を発揮します。殺菌力は極めて強く安価なため、畜舎消毒に使用されるケースは非常に多いのではないでしょうか。車両の通り道に直接散布されることが多いですが、吸水性が高い上に、少しずつ炭酸カルシウムに変化して効果を失ってしまうため、週に1回程度の定期的な散布が必要となります。粉末の状態では平面散布しかできませんが、水と混ぜた石灰乳としてハッチや畜舎の壁面などを消毒することもできます。石灰乳のメリットは病原体を閉じ込める効果もあるという点です。例えば消石灰では芽胞菌の殺菌はできませんが、ドロドロの石灰乳で閉じ込めてしまえば畜体と病原体の物理的な接触を回避することができます。

※畜体消毒が可能な消毒薬の中には「食用に供する目的で出荷を行ってはいけない期間」が設定されている薬剤があります。とくに出荷時期が近い個体がいる牛舎では、使用する消毒薬にこのような期間の記載がないかをよく確認しておきましょう。

次回につづく
 
 
今週の動画
牛の助産 midwifery【獣医師視点】

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