2024年5月21日 **************************************** この記事を読みながら、「うん、うん」と首肯する自分がいました。 小生は獣医師になりたての頃、とにかくEBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)を目指して日夜臨床現場でボロ雑巾になりながら診療と勉強にあけくれていました。 当時の獣医療は実戦経験の数がものをいう世界。大学でイノシシの頭蓋骨にノギスをあてて計測していた臨床現場での実践経験ゼロの蓮沼青年。とにかくわからないことだらけ。農家さんには「ヤブ沼獣医師」、「泥沼獣医師」、「獣(10)医ではなくまだ6医」などとお褒めの言葉をゲップが出るくらいたくさんいただきました。 畜主さんと一緒にどうしたものかと二人で思案していると、たまたま通りがかったおばちゃんに「まあ、かわいそう!はやく獣医さんを呼んであげて!!!」と言われたこともあります。あの時は本当にずっこけそうになりました。 だからこそ、小生はEBMに大いにあこがれていました。熱望していました。 教科書を読んでも、現場に応用することが非常に難しかったので、様々な畜産や獣医学に関する雑誌を過去のものから入手できるものを片っ端からチェックしました。そして、興味のあるものをコピーして読みまくりました。それでも現場ではわからないことは山ほどあり、途方に暮れることも頻繁にありました(実は今もありますが・・・)。とにかく今のようにネットなどが発展していなかったため、情報を入手することが滅茶苦茶大変だったのです。 ただ、ある程度経験を積み、診療所の検査体制も充実してくるといろいろなことがわかってきます。気が付くと、少しずつEBMができるようになってきていました。獣医師として自信もついてきます。もちろんこれはプロの臨床獣医師として成長していくために非常に大切なことです。 しかし、実はもう一つ大切なことがあります。 それは何かといいますと、NBM(Narrative Based Medicine:患者さんが語る病を主体ととらえ、それに基づいて組み立てる医療)になります。これは人医療の定義になりますが、NBMの特徴を述べると以下のようになります。以下の文章は記事の抜粋になります。 ・患者が自身の人生の物語を語ることを助け、“壊れてしまった物語”をその人が修復することを支援する臨床行為。 獣医療においては、語るのは農家さんであり、獣医療行為をうけるのは牛さんになります。主体が異なりますが、おおいに参考になる点があると考えています。 診療をアッという間に終わらせて「茶飲ん話」ばかりしていました。農家さんの語る物語が大好きだったのです。なんちゃってNBMです。今考えると、小生はEBMが十分に出来なかった分、NBMでカバーしようと必死だったのかもしれません。 ただ、NBMだけに注力してもいけません。かならず、EBMを基礎とした取り組みでなければいけません。ここだけは忘れてはいけません。記事を書かれた渡辺先生も「エビデンスに基づかないナラティブはただの口のうまい獣医療になりかねない。EBMを無視することは、誤解を恐れずに言えばインチキでしかない」と述べています。 しかし、それでも小生はNBMが好きです。それは、NBMを行おうと思う臨床獣医師のその意識の中に、他者に対する思いやりや優しさ、つまり「愛」を感じるからです。綺麗ごとかもしれませんが。 屁のツッパリにもならない田舎の鼻糞獣医師ですが、EBMとNBMのバランスを少しでも良くできるようにこれからも精進したいと思います。 |