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蓮沼浩のコラム
第775話:マイコトキシン

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2024年4月16日

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小生、実は過去にマイコトキシンの研究をしていました。そして今も現場で共同研究者として採材もしています。そういうわけで、普通の方々よりもほんの少しだけマイコトキシンについては知っています。このマイコトキシンというものは、簡単に言えば「カビの二次代謝産物として産生される毒の総称」となります。アフラトキシン、ゼアラレノン、フモニシン、DONなどなど色々あります。昔から多くの研究がなされており、毒性に関してもかなり判明しています。

カビ自体が問題となる場合もありますが、実はカビが出す毒(マイコトキシン)の方が問題となります。カビ自体は食料品として有効に使われている事例も多々あります。ブルーチーズなど典型的なカビを有効利用している食品になります。わたくし達は思いっきり青カビを食べています。もちろんブルーチーズの青カビはマイコトキシンを出してはいません。カビ以外でも麹菌や納豆菌などの菌の力を借りている食品は多々あります。味噌、醤油、ヨーグルトなど微生物発酵の恩恵の最たるものです。本当にありがたいことです。

カビだけでなく細菌についても毒素に関しては同じように考えることができます。たとえばエンテロトキシンというものがあります。これは「細菌が産生するタンパク質毒素のうち、腸管に作用して生体に異常反応を引き起こす毒素の総称」といわれています。カビが産生するマイコトキシンと似ていますね。

人の世界ではブドウ球菌が産生するエンテロトキシンが有名ですが、牛さんではクロストリジウムの産生するエンテロトキシンが結構有名です。子牛や育成牛の腸管が出血により真っ赤になり、急死します。毒性が非常に強いです。エンテロトキセミアという診断名もあります。なかなか予防するのが難しい厄介な疾病です。

大腸菌の中にも強烈な毒を出す血清型があります。有名なのは、腸管出血性大腸菌(O157)ではないでしょうか。ベロ毒素という強烈な毒を出します。これ以外にもさまざまな病原性のある大腸菌がいます。

獣医さんは生後まもない子牛が突然血便を発症した場合は、病原性大腸菌の感染を疑います。腎臓の機能がわるくなることもあります。溶血性尿毒症症候群を発症すると重症化します。要注意です。

先日新聞を読んでいると、紅麹を原料とする機能性表示食品を摂取した方に健康被害が発生してる報道がありました。尿細管間質性腎炎を発症したと報告されています。紅麹を原料とする機能性表示食品を摂取して、いわゆる腎毒性があったとの報告です。小生はすぐにマイコトキシンのなかのオクラトキシンを疑いました。

しかし、違いました。確かに紅麹がオクラトキシンを産生するなど今まで聞いたことがありません。それに検査すればすぐにわかります。

色々と調べてみると、何と驚くべきことに腎障害の起因成分の同定がなされていませんでした。何が原因で尿細管間質性腎炎を発症したのかが現在の所不明です。
「共通点は紅麹」ということが判断の根拠となります。

紅麹色素など、ありとあらゆる食品で大量につかわれているじゃないですか。

正直、科学者の端っこの端にいる超田舎の鼻糞のようなどうでもよい牛の臨床獣医師兼研究者の端くれですが、この結果に驚きを隠せません。ホンマかいな?嘘やろ?

ただ、多くの被害がでていることは間違いありません。

他にも何か共通点があるのではないでしょうか?
より深く精査する必要があります。
今後の報告を注視したいと思っています。

お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、健康被害にあわれた方の速やかな回復を願っております。
 
 
今週の動画
マイコプラズマ性中耳炎治療のための中耳洗浄

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