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蓮沼浩のコラム
第767話:Ca(OH)2 → CaCO3 大体7日

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2024年2月20日

牧場の入り口付近が真っ白になっています。牛舎の通路が真っ白になっています。なにやら牧場のスタッフが白い粉を牛舎に撒いています。この白い粉は一体何だろうか?

そうです、農家さんや獣医さん、トラックの運転手さんなど畜産関係者の皆様にはおなじみの「消石灰(しょうせっかい)」になります。

この消石灰は牧場内に病原性微生物を侵入させないように、主に牧場の入り口などに散布されていることが多いです。もちろん、牛舎内で使用されている場合も沢山あります。この消石灰は白い粉なので、視覚的にもなんだか消毒している感じがして、「消毒している感」が高まります。

この消石灰は正確には「水酸化カルシウム」と言います。化学式で書くとCa(OH)2です。この消石灰の消毒効果のメカニズムは以下のようになります。

● 水中における水酸化イオン遊離による細菌の細胞膜の損傷
● 高いpHを示すことによる病原体のタンパク質のイオン結合の切断による変性・酵素の失活
● 水素イオン化による病原体DNAの複製阻害

何だか難しい内容になっていますが、消石灰の消毒効果の中で重要なことは、散布した消石灰が高いpHを示す、つまり強アルカリ化になることと言われています。

2023年12月にとある論文が公開されました。

「フィールドにおける消石灰の経時的な劣化の検討及び農場における使用実態調査」
日本獣医師会雑誌 Vol.77 No.2 2024 東京農業大学 鳥居先生

小生、このような論文が実は大好きです。「普段何気なく行っていること」に対して本当はどのようになっているのか調べてみる。当たり前のようにやっていることだからこそ、その根拠をしっかりと理解しておきたい。

「消石灰を撒く」という一つの行為ですが、実はほぼ99%以上の人がただ何となく撒いているのではないかと小生は勝手に思っています。このような事例は他にもいろいろあると思います。

小生はこの論文から学ぶことは以下の点になると思っています。

【消石灰は時間が経つと炭酸カルシウムに変化し、消毒効果がガタ落ちする。外見上同じ「白い色」なので、なんだか消毒効果が続いていそうな気がするが実は全く効果が無くなっている。大体、消石灰が炭酸カルシウムに変わるのは7日後あたり。特に雨が降った後は一気に消石灰が炭酸カルシウムに変わってしまうので要注意。季節による違いはあるが、大体1~2週間で再度消石灰を散布したほうがよい。伝染病が流行している時は1週間に1回散布したほうが良い。】

このほかにも消石灰有効性確認試薬(ライムチェック 東洋濾紙(株) 東京)というものがあるので、しっかりと効果が持続しているか確認するために使っても面白そうですね。

消石灰は長靴や車両の消毒には水に混ぜて石灰乳にした方がよかったり、塩素系消毒薬と一緒に使用してはいけなかったり少し注意が必要な点もありますが、今回のような効果の持続期間に関しても意識を向けることができれば、これからより一層重要性が増してくる牛舎の防疫に対して今まで以上にしっかりとした対策がとれるのではないでしょうか。

今回この論文をよみ、ふと福沢諭吉先生の唱える「実学(じつがく)」という言葉を思い起こしました。

実学:一科一学も事実を押え、その事につきその物に従い、近く物事の道理を求めて今日の用を達すことを目的とす。
 
 
 
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