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藤﨑ひな子のコラム
PCRとELISAの使い分け

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2024年2月9日

 東京では約2年ぶりの積雪というニュースを見ながら、鹿児島は気温16度でぬくぬくとしています。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

 前回までのコラムでは、ELISAとPCRについてお話しました。今回は、ELISAとPCRをどう使い分けているかについてお話します。

 ざっくりというと、ELISAは抗体検査、PCRは抗原検査のために利用しています。抗原とは病原体を、抗体とは病原体に対して宿主が産生するタンパク質を指します。

 ELISAはいつどのように利用しているのでしょうか?ずばり、スクリーニングとしてのELISAの利用です。感染が成立して抗体が産生されると一定期間は血清中に抗体が存在します。ですので、定期的にELISAで抗体検査を実施していれば、その個体が病原体に暴露されたことがあるか、またどのくらいの時期に感染したのかを推定することができます。
 ELISAで抗体検査を実施する感染症としては、「農場で一度でも発生してほしくない病気」が主となります。言い換えると、牛が抗体を持っていると「やばい!」と思ってしまう病気です。ELISAで定期的に抗体検査を実施し、「陰性」であることを確認し、もし「陽性」が出た場合はその個体を隔離し農場内で拡散しないよう迅速に対策をとります。

 では、PCRはどのような場面で使うのでしょうか?それは、原因を特定したいとき、です。例えば、咳をゴホゴホしている子牛がいたとしましょう。ペニシリンやセフェム系抗菌薬を投与していましたが、症状は治まらず耳も垂れてきました。鼻腔スワブを採取し、PCRで抗原検査をするとマイコプラズマ・ボビスが陽性という結果が出ました。なぜ抗菌薬の治療が奏功しなかったのか。それは、マイコプラズマは細胞壁がないので、細胞壁をターゲットとする抗菌薬を投与しても効かないのです。このように、原因となる病原体を特定することは治療方針を決める上でも重要なのです。また農場の耐性菌の検査をする際も利用することがあります。

 今回はELISAとPCRの使い分けについてお話しました。抗体検査をしたいのか、抗原検査をしたいのかで使い分けをしています。また、実際にはELISAとPCRを組み合わせて行う場合もあります。なぜなら、どちらの検査方法も完璧ではないからです。次回のコラムでは、これらの検査系にある落とし穴についてお話します。
 
 
 
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