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松本大策のコラム
「牛白血病のお話し その2」

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2008年2月25日


 前回、牛白血病の感染経路についていろいろとお話ししました。その中で、精液による感染はないというお話をしましたが、これは母牛が牛白血病に感染している場合でも同じで、生殖細胞つまり卵への感染はないといわれています。
 そして分娩の際にも感染する危険は低いといわれています。しかし、ここに落とし穴があります。せっかく分娩の際にウイルスに感染しなかった子牛、もしくは感染ウイルス量がきわめて少なかった子牛が、このあと大量のウイルスに感染する機会があるのです。それは、なんと初乳からの感染です。実は初乳の中には免疫抗体が豊富に含まれていますが、そのほかにリンパ球などの白血球も豊富に含まれているのです。実は母牛が白血病に感染している場合、ウイルスがもっとも感染しているのが、これらの白血球なのです。そしてこれらの白血球が、子牛のピノサイトーシス(免疫のような大きな粒子を取り込む働きで飲作用ともいう)によって体内に取り込まれてしまうのです。
 この問題は、実は深刻なのです。というのも、直腸検査手袋やアブによって移るウイルス量はさほど多くないのに対して、初乳から移るウイルス量は格段に多いからです。みなさん、潜伏期間という言葉を聞いたことがありますよね?これって、感染したウイルスが、発症に必要な量まで体内で増える期間のことなんです。ですから教科書では「発症は生後5〜6歳前後」と書いてあるのは、アブなどで感染したウイルス量が少なく、発症に必要な量までウイルスが増えるのに時間がかかるからなのです。ところが、初乳によって感染するウイルス量は圧倒的に多いので、発病に必要なウイルス量に増えるのにそんなに時間がかかりません。最近、生後13ヶ月齢(肥育農家に買われていってから3〜4ヶ月)で発病して全廃棄になる牛さんが出てきているのも、初乳感染が原因だと考えられているのです。
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