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蓮沼浩のコラム
第758話:実録! 双子のお産

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2023年12月12日

先日夜に農家さんから往診依頼がありました。

農家さん「先生、なんかお産がはじまったんだけど、足が3本あるんだよね~」

ハス「双子ですね~~わかりました、すぐに向かいます!」

現場に着く前に小生は頭の中でいろいろとシュミレーションをします。今まで本当に数々の難産に立ち会ってきました。双子もそこそこの数みてきています。基本的に和牛の双子の場合、子牛は小さくて結構簡単に娩出させることが出来ます。せっかくなので、橋本獣医師も往診に呼んでしっかりと双子の難産の勉強をしてもらおう!二人でササっと娩出させて、さっさと帰ろ!とのんきに考えていました。

しかし・・・・

今回は違いました。

まず産道内の触診をすると、子牛の頭とその下に足が2本出てきています。そして、右下方に出ている足よりも少し大きめの足が1本産道に向かってきています。

なるほど、なるほど。ガッチリはまっているなあ。ちょっと厄介そうやね~~。でも子牛のバイタルはあるのでよかった!

橋本先生にも触診してもらい、確認してもらいます。

ハス「どうだい?わかったかい。双子の場合、足の診断がとにかく大事だからね(笑)」
この時はまだ小生余裕でした。

双子の診断で一番重要なのは触れる足が一体全体どの胎児のどこの足なのかをしっかりと把握することになります。

今回の事例でも頭の下にある2本の肢は同じ大きさであり、右下にある足とは違うのでまずは頭と両足にロープをかけて軽く引いてみました。

あれれ???少し出てきたけど、全く動かないぞ??

この時点で小生は嫌な気配を感じます。再度すべての肢を奥深くまで触診して確認します。すべての肢が前肢のようなのですが、右下の肢は深くて触診でははっきりとしません。そして、どの足が頭の出ている胎児の前肢なのかはっきりとしません。

気が付くと冷や汗が出ていました。久しぶりです。

この時点で、橋本先生へ教えることはすっ飛びました。自分が100%以上の能力を使って何とかしなければいけない状態に突入です。やべえ!!

実は双子の場合、頭位と尾位の組み合わせが診断がつけやすく、介助がやりやすい場合が多いです。後足の場合は触診で飛節を触ればわかるので、どちらの胎児の肢であるかがしっかりとわかります。

今回の場合は前足が3本であり、どっちの胎児の肢かわかりません。もう一本あるはずだと下腹部の方向に向かって探すと一本足が折れ曲がってありました。

しかし・・・この足はがっちりと屈曲してはまっており、なおかつかなり深いのでどうすることもできません。十分な触診ができないので、前肢だとおもうけど、確信がもてません。疑心暗鬼になります。

ここで子宮平滑筋弛緩薬と尾椎麻酔を実施します。そして、ひとまず出来るだけ奥に子牛を押し込みます。

難産の場合、このように薬を使ったり、奥に押し込んだりすることは非常に重要なテクニックになります。子宮が緩んだり、陣痛を抑えたり、押し込むことで活路を見いだせることが多々あります。

しかし、今回の場合は違いました。とにかく産道が狭く、小生の手がガチガチにはまり、整復が困難を極め、押し戻したり、奥まで足を確認したり、子牛の頭を動かしたりいろいろ行って何とか頭が出ている子牛の肢を確定したかったのですが、母牛は座り込んだり、また立ち上がったり・・・・刻々と時間は過ぎます。


ちょっとわかりにくいですが、前からみるとこんな感じです。


横から見た状態。

だ、駄目じゃ!! 経腟分娩、ギブアップ!!!!

農家さんに帝王切開をする旨を伝えて、速やかに手術の準備にとりかかります。母牛は横になっていたので、右側臥位で手術する事に決定。橋本先生に剃毛から術前の処置までお願いして、手術の準備をします。

ところが、いざ手術に入ろうとしたところ、母牛がバッタバタ暴れて手に負えません。しっかりと保定できる手術台があればいいのですが、パドックの中の堆肥の上では、そんなことは夢のまた夢です。どうしようもないので、足のロープを解いて再度立たせて仕切り直しです。

3人で茫然と立ち尽くし、こりゃ時間はかかるし大変なことになるぞと絶望感が漂い始めました。そんな時、ふと小生がもう一度産道の触診をすると少し胎児の状態が変わっていました。なんと折れ曲がっていた足をもってくることができたのです。前肢確定です。すぐに頭と両足をロープで取り、最初に2本出ていた足を奥に押し込んで牽引スタンバイ。産道がギチギチなので慎重に牽引すると、少し子牛が出始めました。

これは行ける!!!!

3人で牽引して、まず1頭目を娩出。すぐに子牛の蘇生を行います。その間に小生はもう一頭の子牛を整復して娩出させます。この子牛は両前肢を前に伸ばして、頭は思いっきり腹側へ曲げていました。何とか2頭目も娩出。

奇跡的に2頭とも無事であり、母牛もダメージがほとんどありませんでした。お産が終わったあとは全員グッタリ。久しぶりに強烈な難産介助でした。

ただ、ホッとしている農家さんと無事に生まれた双子の子牛とお腹の毛を剃られたお母さん牛を見て、本当に良かったと思いましたね~~~。牛さんの獣医師の醍醐味です。

今回はちょっと長くなりましたが、双子の難産介助の状況を紹介してみました。以下にポイントも書いておくので参考にしてみてくださいね。

・ 必ずすべての肢がどの胎児のどこの肢か確認すること
・ 整復が難しい場合は子宮平滑筋弛緩薬や尾椎麻酔を使用すること
・ 診断がはっきりとつかない状態で決して無理な牽引はしないこと
・ 帝王切開に切り替える判断も非常に重要
・ すこし時間が経った状態で再度整復をするのも検討の余地あり

文章だけだと非常にわかりにくいと思います。人間でその時の胎児の状態を再現したので、参考にしてみてくださいね~。
 
 
 
今週の動画
種牛の鼻環

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