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蓮沼浩のコラム
第756話:跛行診断

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2023年11月28日

鳥インフルエンザの季節がやってきました。去年は10月28日に岡山県で1例目の報告がでましたが、その後一気に全国に広まっています。今年も第一例目は少し遅くなっていますが、要注意です。
実は・・・小生のいつも行く近所のフナ釣り場で、野鳥の鳥インフルエンザが発生してしまい、釣りができなくなってしまいました。小生を含め、何名かの「へら師」のじい様とオッサン達が途方にくれていますが、どうしようもありません。極(ごく)、極、極、極、極、極一部のある意味世間様から言えばどうでもよい人たちに、恐るべき影響がでています。困った。

牛さんの跛行診断(はこうしんだん)というものがあります。乳牛の世界では跛行スコアというものがあり、背部の姿勢と歩行の状態により、スコア1~5までの5段階に分類されます。主に乳牛の蹄病の発見に用いられています。群やステージごとの数値の平均値などをみることで飼養管理の改善に役立てています。

では、肉用牛の場合はどうであろうか。もちろん乳牛の跛行診断スコアもしっかりと使うのですが、それ以外にも小生が気を付けて診ているところがあります。

■ 最初に注目するところは足が地面につくのか、つかないのか。足がつかなかったり、しっかりと地面に負重できなかったりする例が結構います。足がつかなければ、すぐに患肢がわかるので助かります。

■ 腫れているところがないか?バランスの悪いところはないか?と目を皿のようにしてみます。特に左右の違いを意識してみます。牛さんの後ろ、そして前に陣取り、やや離れた場所から腰をかがめて注視します。意外とこれで球節、前膝、飛節が腫れているところを発見できます。肩端や膝関節もよく見ます。場合によっては巻き尺で太さや長さを計測することもあります。

■ ペルビック・ロケーションの異常はないか確認します。このペルビック・ロケーションとは骨盤の腰角、大腿骨の付け根、坐骨端の位置になります。この配置が正常か後方やや上面から確認します。股関節脱臼などの場合はこのペルビック・ロケーションに異常がみられます。ちなみに、ペルビックは骨盤、ロケーションは位置という意味です。

■ とにかく触ってみる。触診は非常に重要です。腫れているところがあれば、熱感や圧痛があるのか確認したり、動かしてみたりします。異常な音がするときもあります。ただ嫌がっている場合もあるのでなかなか判断が難しい場合もありますが、牛さんが痛がるのか確認もします。場合によっては体表リンパ節や直腸検査による骨盤腔内のチェックも行います。結構大事です。

■ 足の裏を診ることも重要です。蹄の間に趾間腐爛がないか確認したり、蹄をたたくことで白帯病などの蹄病がないか確認したりします。

■ 球節の沈下がないかの確認も重要です。患肢が地面に対して負重できていない期間が長くなると、患肢と反対側の足の球節が徐々に沈下してきます。痛い肢をかばって片足だけに体重が乗ってくるので、腱が伸びてしまい、このような状態になります。これは非常に重要な所見であり、明瞭な沈下が見られる場合は経過が長く、重症の場合が多いので要注意です。

■ 何かイベントがなかったかの確認も非常に重要です。最近敷料交換を行ったとか、削蹄の為に枠に入れたとか、発情がきていたなどなど。跛行の何割かは何かしらのイベントの後に発生します。特に敷料交換後や群編成、移動後などは要注意です。

■ 右回りや左回り、時にはバックなど、とにかく牛を動かしてみることも非常に重要です。特に痛い肢を軸にする旋回運動は嫌がります。

■ もしもエコーやレントゲンがあればうまく利用するのもありだと思います。小生は今までの「膨大な量の悲惨な経験」に頼ることが多く、まだまだ画像診断の経験値が低いので今後の検討課題です。

■ 血液検査でCKやGOT、カルシウムやマグネシウムなどなど色々チェックするのも意外な発見があり面白いかもしれません。

思いつくままにポイントを羅列してみました。まだまだ注意する点はあるかと思いますが、とにかく跛行診断は難しいので一つ一つ状態を確認しながら診断をつけることが大切です。また、跛行スコア4以上になれば、速やかな隔離管理も大切になります。群飼いであれば、速やかに一頭にしてゆっくりと休めるようにしてあげます。少し狭いところで運動制限をして休ませることをストール・レストと言います。跛行スコア3でも、治療により反応が悪ければすぐに隔離したほうがよいと思います。
 
 
 
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