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松本大策のコラム
便移植について思う

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2023年10月30日

 このコラムでも紹介したことがあると思いますが、子牛の下痢対策として「糞便移植」というものがあります。元々はドイツで人間用の医療として広まったものですが、文字通り「他人の便をお尻から移植する」というものです。もちろん移植するのは、便そのままではなく、生理食塩水で溶かして濾過したものですが、自分がされるとなるとちょっと二の足を踏んで遠慮しときたくなる療法です。
 しかし、最近糞便移植がまったく関係ないガンの治療として注目されてきています。これは、移植された糞便の細菌を、移植された側の人間の免疫が殺す働きが強くなり、その免疫がガン細胞も殺してくれるのではないか?といわれています。
 でもちょっと待ってください。免疫が、移植された糞便中の細菌を殺す力を強める、というのであれば、別にウンコを移植しなくても他の細菌を移植すればいいんじゃない?子牛の下痢に対する糞便移植の働きも、他の健康な牛の糞便中の細菌を腸炎の子牛に移植できるから効果がある、と説明されていますが、それなら感染症まで移植してしまう「糞便移植」よりも、善玉菌の生菌剤を移植した方が安全だし効果的なんじゃない?と、こういうことをずっと考えていました。

 最近、消化管内の細菌叢を決定するのは、消化管内に存在して、特定の種の細菌を殺すウイルスの種類による、というお話を聞きました。そのときハッとしました。糞便移植で重要な働きは、他に変更のしようがない消化管内のウイルスを移植することで、そのウイルスが悪い細菌を殺してくれる事なのではないか?
 健康な腸内には、健康な細菌叢を作る(つまり悪いばい菌を殺し、よい菌を残すウイルスがいるはずです。お腹が悪い牛さんの腸内には違うウイルスがいて、悪い菌を残しよい菌を殺しているから、健康な牛の腸内のウイルスを移植すれば、健全な細菌叢になるのではないか?と思いついたのです。これはもっと偉い科学者の方が研究してくださるのを待つしかありませんが、ウイルスを利用する(ガン細胞を殺すのも、このウイルスが免疫の活性化を起こしているのかもしれません)というのはおもしろいな、と病床の中で考えていました。

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(今回のリンクは本文とは関係なくの前足を持ち上げる方法です)

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