(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
笹崎直哉のコラム
佐々畜産で研修して その3

コラム一覧に戻る

2023年7月31日

では牛飼いで教えていただいたことを具体的に紹介しようと思います。朝一番は肥育牛舎(2頭/マス)に向かいます。そこで竹ほうき、ちりとり、スクレーパーを持って残飼の掃き寄せなどを行います。
掃き寄せは配合飼料だけ飼槽に残し、粗飼料は通路側に寄せるといった作業なのですが、佐々先生からは牛をしっかりと観察しながら作業するように言われました。そうすると残飼の掃き寄せだけでも多くの情報を得られるようになりました。飼槽が空でおまけに舐め上げている牛は掃き寄せの時点でエサを欲しそうに顔を出したり、残飼のある牛は下痢をしていたり、呼吸が速かったり、こちらに何も興味を示さず寝ていたり、目を見開いていたり等いろいろです。
ここで気になるのが「残飼のある牛は全て診察対象なのか」です。答えはNoです。明らかな異常所見や水下痢などが認められない場合、柱に記載された月齢、ビタミンAD3E製剤の給与日、配合の給与量などの情報から診察対象かどうかを判断しています。餌を残した理由をどのスタッフさんでもある程度まで推測できる、いわば「見える化」がどの牛舎にも工夫して施されています。
例えばビタミンAD3E製剤を給与して数日経過しても、残している場合は診てあげた方がいいですし、ちょうど増飼したばかりとか、血中ビタミンA濃度が低値に向かっている月齢であれば少々の残飼があっても驚くことはありません。
一方残飼が無い、すなわち完食していたとしても「飼槽を舐めた跡があるか無いか」を注視するよう言われました。舐めた形跡がある場合は飼料が足りていない可能性がある(加療中の個体は別として)ので増飼を考えてもいいかもしれないとのことでした。

飼槽に付着した糞はスクレーパーで綺麗に取り除きます。牛の嗅覚は敏感ですので、食べ残しを放置してしまったり、糞などの異物を綺麗にしないと食欲が減退します。ちなみに東京大学の研究チームの論文が米科学誌「ゲノム・リサーチ」に掲載されていますが、本論文では「におい」を感じ取る嗅覚受容体の遺伝子数を動物別に発表されています。人間は約400であるのに対し、牛はなんと3倍の約1,200(犬は約800)に及びます。とても多いですね(ちなみにトップはアフリカゾウで約2,000)。
今回は餌の話が中心でしたが、飲み水や飼い主さんの作業着等、牛はにおいでいろいろな情報を得ている可能性が高く、敏感であることがわかります。

つづく
 
 
 
 
今週の動画
ウシの上の前歯

|