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笹崎直哉のコラム
急に増えた子牛の下痢をあなたはどう捉えますか ~後編 代用乳の温度とビオペア~

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2023年5月25日

「手袋二重」。
診療ノートをさかのぼると端っこに汚い字でそう書かれていました。「なんで書いたのだろう」と謎めいていたのですが、とある日の診療で思い出しました。血中総蛋白質濃度が基準値よりも低く、下痢の治りが悪い子牛に輸血したのですが、留置針で血管を確保した際にハッとしました。「そうだ!補液チューブに留置針を接続させるとき、頸静脈から出る2~3滴の血液で手袋を汚してしまうので、手袋を2枚重ねで装着すれば汚れた手袋をリセットできるから、今後の改善案としてメモしたんだった!」。実は私、普段の診療時に生まれたひらめきや疑問に思うことはノートの端に書くようにしているのです。一方で、思い出せるようなワードを残すように今後は注意しないといけません(笑)。

さて人工哺乳農家さんでの「下痢する子牛が急に増えた」というハプニングの続編になります。
結論から言うと今回の下痢の原因は「代用乳を飲ませる直前の温度が低かった」ことでした。農家さんに聞き取り調査を行いつつ、代用乳を作る作業場に向かいました。そこで「ボイラの調子が悪い」という事実が発覚しました。つまりボイラの不調で希望温度に達していなかったのです。ちなみにお湯の温度は「39℃」。代用乳を溶かす温度は45℃~50℃が推奨されています。つまり温度の低い代用乳を与えていたのです。
通常よりも冷たい代用乳を与えた場合、消化がうまくできないのはもちろん第4胃内のpHが下がるのに時間がかかってしまうため、第4胃の役割の一つである「殺菌効果」が鈍ってしまいます。
早急にボイラの交換を行っていただくようお願いし、私は診療車から「ビオペア」を取り出しました。現時点で下痢をしている子牛に対するアフターケアとして「ビオペア」が効果的ではないかと判断したためです。
ビオペアは①塩酸ベタイン(経口投与後胃内で加水分解され塩酸を遊離し、有害細菌類の繁殖を阻止)②耐酸性の様々な消化酵素(蛋白消化酵素、でんぷん消化酵素、繊維素消化酵素)③糖化菌(生菌剤)
が主成分です。この動物用医薬品はさまざまなケースで使われますが、今回は消化不良、単純性下痢の治療を目的に使用しました。
その後無事に悩まされていた下痢は改善していったのですが、今回のように代用乳の管理失宜によって下痢をさせてしまうケースは絶対にないとは言い切れません。哺育担当のスタッフさんが別のスタッフさんに代わったときなどは、しっかりとマニュアル通りにできているか確認が必要です。また自然哺乳の農家さんで、たまたま親牛が育子放棄をしてしまい人工哺乳をする際、前回同様なケースで使った代用乳が使用期限切れではないか等の品質点検もしっかりと行っていかなければなりません。

 
 
 
 
今週の動画
現場で血液妊娠鑑定キットを使ってみました!!

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