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笹崎直哉のコラム
牛体吊起について考えてみる その8

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2023年4月25日

牛体吊起シリーズの続きです。
閉鎖神経麻痺以外に起立困難な症例に対し、過去吊起を実施したケースを思い出してみました。大きく2つあり、1つは外傷性ダメージによるもの、もう1つはミネラル代謝失調や欠乏によるものです。
外傷性ダメージの例を具体的に挙げると、骨折、脱臼、脊椎損傷、筋肉・靭帯の断裂・損傷になります。一方ミネラル代謝失調や欠乏によるものの代表例としては低カルシウム(Ca)血症、低マグネシウム(Mg)血症などが挙げられます。
今思うと外傷性ダメージによるものは診断を目的として吊起をするケースがちらほらありました。吊起によって、運動障害・麻痺の有無や疼痛部位の把握、関節・筋肉の硬結腫脹部位、褥瘡の有無等を観察できますし、頭の位置、四肢の負重の程度から全身的な姿勢維持機能を意識してみることができるので診断の一助になります。ちなみに肥育中期以降の牛さんに対し、吊起したことで治療による改善が認められない病態と判断することができ、早期(緊急含む)出荷を選択したこともありました。
ただここで問われるのが上記症状、疾病に陥った牛さんに対し「必ずしも吊起が必要なのか」ということです。

答えは「No」です。
発症早期に筋肉の炎症、損傷、断裂等の異常があると診断された場合、即座に起立を促すと、かえってその疾病を憎悪させることがあるためです。判断が難しいですが、初診は農家さんとの情報共有をしっかりと行った上で、起立の強要や吊起をせず、サリチル酸メチルを主成分とする湿布剤や消炎剤などの投与、それから寝返り(体位変換)や他牛を移動して隔離するなどの環境改善をひとまず行って筋組織の回復に努めるという方針でも良いのではないかと個人的に考えています。
 
 
 
 
今週の動画
BoviLab use 3 (現場でBoviLabを使ってみよう その3)

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