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笹崎直哉のコラム
牛体吊起について考えてみる その7

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2023年4月11日

さて牛体吊起シリーズの続きです。
では実際に私が吊起を行った症例について一つ一つ紹介していきます。
◎閉鎖神経麻痺
こちらは繁殖用雌牛での発生がほとんどで、分娩で難産だった場合にみられることがあります。
難産の中でも過大子、もしくは胎子がそこまで大きくなくても、母体サイズが小さいことに比例し、産道が狭い場合は娩出までに時間がかかってしまうので、閉鎖神経麻痺がみられます。また胎子の娩出が途中まで順調でも、ヒップロックがかかると閉鎖神経麻痺が発生することがあります。
そのようなケースでは産道が強く圧迫されるので、産道組織や周囲を走行する閉鎖神経にもダメージが加わり、結果として神経麻痺を起こしてしまうのです。農家さんの稟告が「滑車で引いたのだけど、凄く時間がかかったよー」という場合には要注意です。

閉鎖神経は後肢の内転筋の運動を支配するため、この神経が麻痺することで起立欲が低下し、自力起立できても、跛行や腰萎となり再度倒れてしまうことがほとんどです。最悪の場合、起立不能に陥ります。

獣医さんは難産で呼ばれて介助(助産)した場合は、お母さん牛が立って子を舐めてくれるかどうかをまでを確認してから農場を離れることが多いです。これは閉鎖神経麻痺のチェックを兼ねています。

閉鎖神経麻痺は解熱鎮痛剤や消炎剤を投与し、ペインコントロールをすることで、その後回復していくことが多いです。
一方起立困難レベルの牛は座っている時間が長くなるため血行障害改善を目的に吊起を選択することがあります。

また吊起は自立起立時に発生する疼痛ストレスの緩和にも良いので、立つ練習を目的に行っても良いかもしれません。

ただ、あくまでも閉鎖神経麻痺に陥った牛に対する吊起は根本治療ではなく補助的なものと個人的に考えているため、しっかりと投薬し、牛床環境を整えた上で実施するよう心がけています。
 
 
 
 
今週の動画
BoviLab use 1 (現場でBoviLabを使ってみよう! その1)

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