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笹崎直哉のコラム
症例紹介 後編 ~低ナトリウム、高カリウム、低クロール血症~

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2023年3月28日

3月23日掲載の蓮沼獣医師のコラムの導入にもありましたが、先日人生初の山羊の子宮脱を経験しました。「死産で、もう一頭が途中まで出ている」との稟告だったので急いで向かうと、まさかの胎子ではなく子宮が出ていました。つまり単胎分娩の死産で死亡胎子を娩出後、子宮も脱出したという経緯だったのでしょう。尾椎硬膜外麻酔実施後、生理食塩水で子宮を綺麗にして、白砂糖をまぶし、子宮粘膜を傷つけないよう慎重に整復しました。

近隣の春祭りで鳴り響く太鼓の音と整復時の山羊の鳴き叫ぶ音を聞きつつ粛々と整復。またひとつ臨床獣医師として成長したような気がします.

さて前回のコラムの続きです。
初診時は採血と輸液含む治療を行いましたが、血液検査の結果は翌日でないと分からなかったため(一方BoviLab血液分析装置やポータブル型血液検査装置 i-STATなどを利用すれば現場で検査できますが)まずは下痢による脱水を輸液で改善しようと判断しました。さらに下痢による代謝性アシドーシスを疑っていたので、今回は等張重曹注のみを選択し、ドリップで1L分を1時間程度でゆっくり流しました。あとは炎症反応を抑えるため、抗生剤と消炎剤を投与しました。
翌日、血液検査結果を精査し「ナトリウムとクロールを輸液で足してあげよう」と思いながら、農場に向かったのですが昨日のことが嘘のように活力良好で、飛び跳ねていたのです。おまけに便性状も良好でした。念のためBUN、クレアチニン値が高値だったため、自然排尿を採取し、尿検査をしてみましたが、異常所見はありませんでした。

2診目以降は粛々と抗生剤のみを投与し、農家さんには生菌剤を飲ませるようお願いしたのですが、その後変わらず良便で活力良好な状態が続いたため、治療を4日目で終了しました。
今回のケースは単純に腎血流量の低下に伴って腎機能が低下し、血中の電解質が異常値になってしまったのではないかと推測しました。BUNとクレアチニンに関しても同様、腎臓におけるクリアランスがうまく機能せず、結果として血中の数値が高くなってしまったものと考えました。腎臓における電解質の再吸収や排泄の過程など、まだまだ細かく追求する必要がありますが、血液検査結果から試行錯誤して治療を提供し、牛さんの経過をおうことは臨床獣医師として非常に有意義なものだと改めて実感しました。
 
 
 
 
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