(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
笹崎直哉のコラム
症例紹介 前編 ~低ナトリウム、高カリウム、低クロール血症~

コラム一覧に戻る

2023年3月14日

いつもお疲れ様です。私事ですが3月はダンスのイベントが2つあり、退社後は練習と準備に明け暮れています。チームメイトの高校生には「相変わらず体力ないですね、もっと頑張って下さいよ」と言われ、げんなり。あぁ・・・情けない。

さて今回のコラムは症例紹介です。血液検査についてコメントしようと思います。とある日、42日齢の雄子牛が「下痢してぐったりしている」との稟告を受け、急いで農場に向かいました。自然哺育期間中の子で38.0℃、黄白色水様下痢、起立難渋、脱水、皮温冷淡、右腹部拍水音聴取といった所見で、腸炎の重症ケースと診断しました。念のため病態を血液検査による数値化で詳しく知ろうと思い、治療する前に採血を実施しました。結果が以下になります。

今回注目したのが電解質として知られるNa(ナトリウム)、K(カリウム)、Cl(クロール)値、それから腎機能の指標となるBUN(血中尿素窒素)、クレアチニンです。これら項目は基準値から外れた数値(他の項目も基準値外のものがあります)でしたが、低Na、高K、低CI血症で、ヘマトクリット値が高値ではない(血液濃縮がおきていない)のに対しBUN、クレアチニン値が高かったのが過去の検体と比較して特徴的でした。
特に子牛で高カリウム血症(7.4 mEq/l)を呈す検体は過去あまりなく、珍しい結果でした。さっそくテキスト(よくわかる・得意になる!牛の血液検査学 2022年2月 緑書房)で血清K+(カリウムイオン)濃度の上昇要因について調べました。大きく分けて3つあり「細胞内からの移動」、「生体内K増加」、「偽性高K血症」と分類されていました。「細胞内からの移動」として代謝性アシドーシスによる酸塩基平衡、内分泌異常などが挙げられていました。また「生体内K増加」の説明ではK摂取過剰と腎臓からのK排泄低下が要因とされていました。最後の「偽性高カリウム血症」は細胞膜の破綻による細胞内K+の流出が挙げられていました。
一方今回の症例はBUN、クレアチニン値が高値だったため腎機能低下(障害)を疑い、K値の増加要因の一つに腎臓からのK排泄低下があるのではないかと考えました。ただ下痢をしていたので代謝性アシドーシスに陥っていた可能性も充分あります。

次回は治療内容や考察を紹介しますね。
 
 
 
 
今週の動画
Supraspinous burstitis キ甲腫

|