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笹崎直哉のコラム
牛体吊起について考えてみる その5

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2023年3月9日

先日「生後7日齢子牛がぐったりして下痢している」とのことで往診しました。起立欲もなく脱水が進んでおり、便性状も水下痢と重症でした。輸液を中心とした治療を実施したものの改善なく翌日も下痢をしてしまいました。そこで採血し、診療車の助手席に乗せていた血液検査ツール(BoviLab血液分析装置)で初乳を飲んでいるかどうかの指標となる項目を確認してみました。結果は以下のとおりです。

TP(総タンパク質)の濃度が明らかに低値だったため、良質な初乳摂取が不十分な場合にみられる受動免疫移行不全(FPT : Failure of Passive Transfer)が起こっている可能性が高いと判断しました。血中免疫グロブリンG濃度(IgG)を測定しているわけではないので、確定には至りませんが、この結果を受け輸血することに決めました。輸血後の翌日、糞便性状は改善し、元気に走り回るまでになりました。改めて血液検査は診断や治療方針を決めるうえで非常に大事だなぁと実感しました。

では前回の続きです。起立困難に陥ったケースにおける腹部の聴診は振盪拍水音(聴診しながら腹部を揺らすとポチャポチャと水が動くような音が聴こえます)と有響性金属音(聴診しながら、指や手で弾くとキンキンと金物が鳴るような音が聴こえます)を意識します。左腹部でどちらも聴こえるケースが多いのはルーメンアシドーシスです。急性だと生死に関わるため、絶対に見落とせません。ただ脱水による眼の窪みや淡色の下痢、皮膚温度の低下なども同時にみられることが多いので、聴診する前から「ルーメンアシドーシスかも」とある程度予想がつきます。このルーメンアシドーシスの原因は管理失宜(配合飼料を誤って多く給与してしまったなど)だったり、粗飼料よりも配合を好き好んで食べる個体に発生が多い印象です。厄介なのが肥育(経産肥育含む)以外にも繁殖母牛でも発生ケースがあるということです。
もしルーメンアシドーシスだった場合、輸液や薬剤投与と併せて可能な限りホースで第一胃液を抜く(吐かす)ことがポイントになります。

第一胃の異常発酵によってpHが低下し、それに伴ってエンドトキシンなどの毒素が発生するため、しっかりと胃液を取り除き、リセットさせてあげることが重要です。過去ルーメンアシドーシスになった個体を診てきましたが、座ってうずくまっていることが多い印象でした。なので特に配合増量時期や、粗飼料の食い込みが落ちている時期と起立困難が重なったときは特に注意してみてくださいね。
 
 
 
 
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Supraspinous burstitis キ甲腫

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