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笹崎直哉のコラム
牛体吊起について考えてみる その4

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2023年2月28日

なかなか本題の牛体吊起の話に入らず申し訳ありません。でも非常に重要な話なので、もうしばらく脱線させてください。
では次に聴診のお話です。主に胸部と腹部に分けて考えてみます。まず胸部の聴診についてですが、意識したいのは肺炎です。肺炎は奥が深い疾病ですので、聴診の前に呼吸様式や発咳の有無などもしっかりと確認するよう心掛けてください。
まず呼吸様式ですが、頻呼吸(呼吸促拍)、開口呼吸、腹式呼吸、口回りの泡沫の有無をチェックして下さい。発咳がある場合は泡沫の排出や喀痰がみられるかどうかも併せて確認してください。泡沫や痰を咳と同時に口から出している場合は起立困難を伴う重度な肺炎に陥っていることがあるので要注意です。さらに呼気時に膿臭が認められる場合(獣医師は呼気膿臭と呼んでいます)、肺野に膿瘍が形成された状態、つまり肺膿瘍になっている可能性がありますのでこちらも注意してくださいね。
さてこのような情報収集を終えた後、やっと肺野の聴診に入ります。肺炎になった牛さんで聴取できる典型的な音といえば「荒くなった肺胞音(肺雑音)」ですね。肺雑音を聞くことは比較的容易です。一方肺野の聴診でもっと気をつけなければならないのが「肺音が全く聞こえない」ケースです。これを獣医さんは「無気肺」と呼んでいますが、無気肺は肺水腫や肺膿瘍など非常に厄介な状況に陥っていることがほとんどです。呼吸様式などの臨床症状も悪化している場合は休薬期間の無い薬剤のみを投与し、緊急出荷を選択するケースもありますので「無気肺か否か」を聴診で精査することは非常に重要です。
ただ、無気肺の場合必ずしも肺音が聞こえないというわけではありません。聴診する場所によっては「ヒューヒュー」といった狭窄音や肺雑音が微かに聴こえることがあります。そのため聴き損なうことのないよう丁寧に左右の胸部を端から端まで聴診してください。扇風機、重機の稼働音など環境音の影響で聴診に集中できない場合は一度中断し、農家さんに機械を止めてもらいようお願いして静かな環境を作るのも聴診テクニックの一つですよ~。

つづく
 
 
 
 
今週の動画
ナックル子牛 副木固定にチャレンジ

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