(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
藤﨑ひな子のコラム
1つの手段として、、、

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2023年3月17日

 あちこちで桜が満開とまではいいませんが、咲いているのを見かけるようになりました。もう春ですね~。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 先日、動物衛生研究部門の新井先生が書かれた総説「牛のエンドトキシン血症における第一胃運動、第四胃運動および肝臓への影響」を読みました。内容は濃厚飼料の多給や、大腸菌由来のLPS(エンドトキシン、グラム陰性菌の内毒素)を頸静脈注射することによってエンドトキシン血症になったときに、血液性状や第一胃運動、第四胃運動および肝臓がどのような影響を受けるのかというものでした。詳しく知りたい方は是非読んでみてください!

 そのなかで個人的に驚いたことは、肝臓が障害を受けても必ずしも血液中のAST値が上昇しないということでした。
 ASTとはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼというもので肝細胞の変性や壊死を反映する逸脱酵素(障害の程度を表す酵素)です。胃腸の血液は門脈で回収されて肝臓に運ばれます。胃腸から運ばれてきた血液の中には毒素なども含まれます。その毒素などが多く含まれた血液を肝臓で解毒して、解毒された血液が心臓に戻り、再び全身をめぐるのです。しかし、解毒できる限界値を超えると肝臓が障害を受けてしまいます。この総説では、濃厚飼料多給をし続けた後に肝臓を調べてみると、巣状壊死(一部の肝細胞が死んでいる状態)や出血巣が認められました。しかし、血液中のAST値に優位な変化は認められなかったというものでした。また、血液中に直接大腸菌由来のLPSを投与した実験では、やはり肝臓に巣状壊死が認められました。その際のAST値は、LPS投与後は急速に上昇し投与後2日までは高値を認めましたが、4日後には元の数値に戻っていました。

 シェパードでは日頃、診療の際に血液検査をよく行います。原因が不明な時や、障害の程度、回復の程度などを調べたいときに行います。しかし、今回の総説で肝障害が認められているにもかかわらずAST値が上昇しないという結果は驚きでした。血液検査はあくまで診断の方法の一つの手段であって、病態の全てを映し出すものではないことを改めて考えさせられました。血液検査の結果だけに限った話ではないのですが、一つの検査に偏らずに、視診、触診、行動観察、聴診等を駆使して総合的に診断することを心にとめておきたいと思います。

 
 
 
 
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