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笹崎直哉のコラム
牛体吊起について考えてみる その3

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2023年2月9日

前回のコラムの続きです
初診の触診で真っ先に確認したいのは尻尾の力の入り具合です。これは背骨や背骨の中を走る脊髄神経の状態を把握することを目的としています。他牛の乗駕によって脊髄を損傷している場合は麻酔を打ったかのように抵抗なくブラブラと尾を動かすことができます。獣医さんはこの一連の流れを「尾力の確認」と呼んでいますが、予後を判定するうえで重要な検査になるので尾力の程度を細かく分けて経過を追うようにしています。
2つ目は腫脹部位の触診です。特に足をチェックしてください。骨折している場合は立てないケースが非常に多く、骨折部はかなり腫れます。大きい牛さんが座っている場合は四肢の確認が困難ですが、できる限り人手を集め体位変換などを行い足全ての状態を調べるようにしてください。完全骨折(完全に骨が折れ断裂された骨折)の場合は骨折部の前後を動かすとパイプがクネっと曲がるかのように動くので、比較的分かりやすいです。下腿骨や上腕骨などの太い骨の整復は困難であり、月齢の進んだ牛は緊急出荷を視野にいれる必要があるため、腫脹部位の触診は非常に重要です。
次は皮膚(体表面)温度の確認です。これは血圧など、血液循環の程度を知ることができます。健康牛は基本的にどこに触れても温かいのですが、体調不良牛は皮膚温度が冷たいケースがあります。私の経験上、立てない牛さんは冷たい皮膚温度冷たくなっているケースが多いように思います。そんなときは血液の巡りが悪くなり血圧が低下した状態ですので、大量出血、アナフィラキシーショック、ルーメンアシドーシス、雄の尿石症(膀胱破裂)、重度な肺炎、腸炎、肝炎が頭をよぎります。
皮膚温度と聴診、直腸検査の所見はかなりリンクします。よって皮膚温度が低下している症例は聴診や直腸検査の所見も併せて容態を把握し、診断を進めていきます。

つづく
 
 
 
 
今週の動画
Anatomy of the cattle’s lung. 子牛の肺の解剖

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