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戸田克樹のコラム
第370話「いつ肺炎になるのか-分娩時のリスク-」

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2022年9月12日

肺炎はウイルスや細菌といった病原体の感染や熱中症などによって発生してしまいます。正常であれば子宮の中は無菌状態ですし、分娩直後に外部の環境細菌にさらされるにしても感染が成立するまでは日数がかかります。さらに、初乳をしっかり飲めていれば、吸収された移行抗体の影響で病原体は感染力を失って体外に排除されるため、感染が成立することがそもそもないはずです。

一見、肺炎になってしまう要因はないように思えますが、忘れてはいけないのが「無理な牽引」という物理的な要因です。早すぎる牽引や産道が狭い(胎子が大きい)場合に無理な牽引を行うと、胸部圧迫や肋骨骨折によって肺挫傷(肺組織内の出血)が起こります。母体の骨盤を経過する際にある程度の圧力が子牛にかかることは、自発呼吸を促す意味でも大切なことですが、あまりにも圧力が強いと骨盤に押されて肺が圧迫され、ひどい場合には肋骨が折れるのです。

(肋骨骨折によって激しい出血が起こります)

さらに出血箇所に病原体が侵入すると症状は進行します。血液には栄養分がたくさん含まれているため、病原体は出血部位で次々と増殖していきます。そうすると、さらに強い炎症が起こり、その範囲がどんどん広がっていき、ひどい場合には化膿性肺炎や胸膜性肺炎へと移行していきます。

(胸膜と癒着し、膿塊が散在した肺)

こうした状態になる前に治療をしなければいけません。肋骨骨折をした場合、呼吸のたびに胸に痛みが走るため浅く速い呼吸になりやすく、熱も出ます。もし、生まれてから呼吸が速い子牛がいたらすぐさま肋骨の状態を確認することをお勧めします。
 
 
 
 
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