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ゲストのコラム
おいしい牛肉を求めて、三方よしの取り組み(最終回)

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2012年4月10日

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私と、きたやま南山の楠本社長の2人ではじめたこの取組みですが、いまはたくさんの飲食店に共感の輪がひろがり、木下牧場産の牛肉に共感を得た飲食店の交流も盛んにはじまっています。
2011年2月1日には、フードアクション・ニッポンアワード プロダクション部門において優秀賞をいただくことができました。

ところで、あまりにも赤身、赤身と言うと、サシが入った牛肉が悪いように思われるかも知れませんが、けっしてそういう意味ではありません。

そのあたりは誤解しないようにお願いしたいのですが、赤身肉の評価があまりにも低いことからこんなにおいしい赤身肉を、もっと広めたい、できることなら生産者の経営が成り立つ価格で取引ができないものか、そんな想いがきっかけでした。

赤身肉だけではなく、経産牛もしかりです。
廃牛扱いするのではなく、商品化して地域に還元できないかと試行錯誤した結果、地産地消のブームも影響して、レトルトカレーや近江牛弁当として、県内のローソン全店で販売して大盛況のうちに完売した。

私の取り組みは田舎の肉屋の枠を超え、1つの事業としても評価されはじめました。

経済産業省後援事業のIT経営百選最優秀賞やフード・アクション・ニッポンアワード2010においてプロダクト部門優秀賞を受賞するなど、この8年間で18もの賞をいただくことができました。

振り返ってみると、10年前に生産農家さんを訪ねたことからはじまりました。

消費者のみなさんは、生産者と販売者、つまり農家さんと肉屋は密接な関係にあると思われているようだが実際は、顔も知らないというのがホントのところなのです。

自分が販売している牛肉が、どこのだれが育てたものなのか、そんなことを知らないで、安心ですよ、安全ですよ、おいしいですから買ってください、って
なんかおかしな感じがしますよね。

でも、これが現状なのです。

逆に、農家の人たちは、自分たちが飼養した牛さんの肉がどんな味なのかを知らないまま育てているんです。

私は、農家の人たちに、自分たちの育てた牛さんの肉が、消費者の方たちにどのような評価を受けているのか、どうしたらもっとおいしくなるのか、そんなことを伝えたいと思いました。

とはいっても、私なんかが声を大にしたところで、聞き入れてもらえるはずもなく
かといって、じっとしている性分でもないので、何軒かの農家さんに私の想いを伝えました。

消費者が知る牛肉の情報は、一方通行のものが多く、味そのものの楽しみ方ではなくサシによる見栄えで完結していことが多いのです。

日本の畜産は、ここ10年ほどで、格付け評価が厳しくなり、農家さんはサシを入れることに懸命になりはじめました。

結果として不健康な牛さんの肉が市場に出回り、サシ重視の取引が多くなっていったのです。
そのことを知っている人は、畜産業界(特に精肉業者)の方でもあまりいない。

私の取り組みは、素材からやることで、まず、農家のみなさんと親しくなり、頻繁に牛舎に通いました。
飼料のこと、血統のこと、病気のこと、牛さんに関することは些細なことでも気にして学んびました。

次第に、私は農家のみなさんと牛さんのことを対等に話せるだけの知識が身に付きました。
もちろん、実際に毎日牛さんに関わっている農家のみなさんの足元にも及びませんが。

うれしいことに、農家のみなさんが、私に牛さんのことを相談してくれたりもしました。

私の強みは、生産者のことも消費者のことも、両方知っていることです。

だからこそ、両者の架け橋になって、牛肉の文化を高めることが自分に課せられた使命だと思ったんです。

サシ重視でずっと続いてきた日本の牛肉ですが、ここ最近は、赤身肉がブームになりはじめています。
健康志向やダイエットブームなどが影響しているのだと思いますが、私に言わせれば赤身肉のおいしさたるもの、もっと奥深いのです。

その1つが、ドライエイジングによる熟成肉です。
当社では、専用の冷蔵庫で40日間熟成させるのですが、これが本当に旨くて感動ものなのです。
主に経産牛を骨付きのまま熟成させるのですが、柔らかくて深みのある味わいに生まれ変わ感動たるもの至極の喜びです。

昔は、牛肉といえば高価なもので「ハレの日」のご馳走でした。
しかし、現在では、和牛の数が多すぎて贅沢感がかなり薄れている感があります。

気軽にテーブルミートとしての牛肉もいいのですが、特別な日の贅沢な牛肉もそれはそれで楽しいと思います。

そして、ワインや日本酒とのマリアージュも特別な日に楽しんでいただきたい。

6回に渡ってコラムを書かせていただきましたが、拙い文章にお付き合いいただき感謝しております。
ありがとうございました。

(おわり)

(株)サカエヤ 代表取締役 新保吉伸
ホームページ: http://www.omi-gyu.com/

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