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松本大策のコラム
今年はマムシが多いので注意!

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2022年8月22日

 今年は変な夏ですね。梅雨明け前からすごい猛暑が来たと思うと、雨が続いて気温が下がりつつ、急に晴れると猛暑になる。牛さんもおじさんもついて行けません。

 そんな夏にもう一つやっかいなことが増えています。
 それがマムシの増加!いろいろな農場で「今年はマムシをたくさん見かける」とか「マムシが多くてネズミがいなくなった」と聞いてはいたのですが、ついに先日牛さんの被害が出てしまいました。

 1ヶ月に1度の巡回コンサルをしている農場で、左前肢の球節の炎症による跛行を起こしていた牛さんが急に肩が腫れたということでビデオと写真を見ながら遠隔診療をしていました。ペニシリンとデキサメサゾンでの治療をお願いしたのですが、全く効果がなく、それどころか、腫れた肩と同じ側の胸部から腹部が急激にげっそりと痩せてきました。

 「もしかしたら出荷になるか?」ということでその後は出荷規制のつかない漢方薬により治療に切り替えていただきました。しかしまったく効果がなく、巡回当日に実際に診察したところ、肩から球節までカッチカチにひどく腫れていて、肩から胸垂、そして首のあたりまでもすごくかたくなっていました。また、肩に小さな排膿孔と指間に肉芽腫の様なものもできていました。

 血液検査の結果を見ると、GOTとCPKという筋肉の炎症を示す酵素と化膿を示す白血球数が上昇していました。

 とにかく35年の獣医師人生でこれまでに一度も見たことのない症状です。なぜこんなに広範にガチガチに腫れているのか? 急激に半身が痩せてしまったのか? いろいろと考えていると、ふと頭にマムシにかまれた犬の姿が浮かびました。最もこんなにひどい状態ではなかったのですが。

 考えたのはこうです。マムシの毒は、血液を溶結させたりタンパクを分解したりします。このため急速に、内出血や筋肉の分解されたものが前肢にたまって腫れて、次にマムシの牙に付着していたばい菌で内出血しておる血液を中心に(血液は化膿しやすいのです)、化膿が進んでしまった。

 これはとても助けられる状況ではないと、緊急出荷をしたのですが、輸送のストレスも加わったためか、屠畜の20分前に死亡してしまいました。そこで、家畜保健衛生所で剖検していただいたところ、全身に内出血が見られ、左前肢は筋肉の繊維の間に入り込んだ内出血がすべて化膿してフレグモーネという状態になっていました。


肺の状態


前肢のフレグモーネ

 これを見ると、「これはマムシにかまれても血清くらいじゃ助からないかも…」と思ってしまいました。みなさんもマムシには十分ご注意下さい。

 ちなみにネットでマムシよけ売っていました。

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