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笹崎直哉のコラム
お産の稟告 ~ヤバいかも!!と思ったケース~

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2022年6月28日

先日の夕刻、助産で繁殖農家さんに新人の藤﨑獣医師と伺いました。

農家さんの稟告は「分娩予定を過ぎた母牛が尻尾挙げて外陰部から茶色っぽいものを出している」と、緊急性のありそうな嫌な雰囲気が漂う稟告でした。

私は分娩関連の稟告を農家さんから頂く際、産道に手をいれて、産道や胎子がどうなっているかチェックしてもらうよう毎度お願いしています。もちろん今回も伝えたのですが、今回に限っては「すぐ行きます!」と結果の連絡を待たず早急に準備して農場へ向かいました。

農場までの道中、私の脳内では「羊水が胎便で染まって茶褐色に変色しているケースだろうな」とある程度の憶測を立てていました。仮に該当する場合(以前のコラムで紹介しましたが)、子宮内での低酸素症との関連が考えられるため、あまりいい状況ではありません。

実際の所見はというと・・・

〇胎子バイタル良好
〇胎子の蹄は黄色に変色
〇2次破水まで済んでおり羊水の色はチョコレート色で血液混入
〇頸管拡張が不十分で、胎子は産道に乗っていない
〇試しに産道マッサージを実施するも陣痛が弱い

以上5つが主な所見です。牛恩恵を留置していない農家さんだったので、いつ母牛の体温が下がり始め、産気づいたのかは分かりません。私の解釈はというと・・・

〇2次破水して以降、長時間(2時間以上)経過しているかも
〇羊水に血液が混入しているから、早期胎盤剥離を伴っているかも
〇母牛が低カルシウム血症もしくはオキシトシン枯渇に陥り陣痛微弱になっているかも

でした。
産道マッサージで胎子が産道に乗らないと判断した私は、胎子の各肢にロープをかけ(胎子が産道に乗っていないため少々難儀しました)、藤﨑獣医師と呼吸を合わせてゆっくり牽引しました。幸いなことに産道拡張と同時並行で胎子も少しずつ産道に乗ってくれました。
次に藤﨑獣医師に3本目のロープを準備し頭を確保するようお願いし、最終チェック「本当にこのまま牽引して事故しないか」を行いました。両者「帝王切開はもちろんのこと、陰部切開も実施する必要がない」と判断し、藤﨑獣医師が胎子の頭ロープ、私と農家さんで足ロープを担当し3人でタイミングを合わせて牽引し見事娩出。胎子娩出と同時に剥離胎盤がいくらか出てきました。やはり早期胎盤剥離もあったのでしょう。一方母子とも元気だったので、心の底から間に合ってよかったと思いました。
農家さんの稟告、とてもとても大丈夫ですよね。
改めて診療依頼を受ける際は「現時点でどんな状況なのかをしっかりと把握すること」を意識していきたいものです。
 
 
 
 
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