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松本大策のコラム
しつこいけど重要なので…

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2022年6月27日

 シェパードの松本です。気温の急変が激しい栃木でも、そろそろ暑さが激しくなってきました。
 この時期、僕が最も警戒するのは、熱中症よりも「急性肺水腫」です。この病気は夏の暑い日の午後から夕方にかけて発生します。牛さんが急に口から泡を吹いて呼吸困難になります。熱中症を併発しているために体温も高いことがあり、肺炎と診断されて抗生物質を使われると、最も出荷規制の短いビクタスの静脈注射でも2日間の出荷規制がついてしまいます。

 それだけでなく、いまは食肉処理場も緊急の受け入れをしてくれないところが多く、すぐに出荷すればお肉に出来るのに、出荷できないと大抵は数時間で死に至ります。

 残念ながら有効な治療方法はありません。というのも、空気の通り道である気管や気管支の中が細かい泡で詰まってしまって、牛さんはまるで自分の肺の中で溺れているような状態だからです。

 この泡を消すために、酸素吸入器のレギュレーターの水(酸素吸入器で緑色のカップの中で酸素が水の中をボコボコと出ているのをごらんになったことあるでしょ?)の代わりにアルコールをいれて消泡し、高張食塩水で気管内の水分の除去を試みたり、酸素を高濃度で吸わせて泡の水分ごしに酸素を吸収させてみたり、といろいろやってみましたが、助かったためしがないのです。

 最も有効な手立ては「緊急に出荷して食肉処理する」ことです。しかし、これが出来ないとなると発生をなんとか抑えるしかありません。

 原因は、一つはビタミンAの欠乏に伴う気管支粘膜、第一胃粘膜、毛細血管の恒常性低下です。もう一つが第一胃の異常発酵です。
ビタミンA欠乏のため肺の毛細血管から水分が漏出しやすくなりますし、気管支粘膜の保水性も変化します。また第一胃粘膜のVFA吸収能が低下すると第一胃内の酸性が強くなって異常発酵が起こり、3-メチルインドールという毒物が作られ、この物質が肺に水腫を起こすのです。

 ですから、夏場はビタミンAを適切に給与しておくこと、第一胃発酵を健全にするために、給餌時間を一定にし、粗飼料を十分に給与すること、生菌剤の給与などで発酵を健全に保つこと、が重要です。

 僕はビタミンコントロールはまったく意味がないと思っています。しかし、ビタミンコントロールを信じている方でも、この時期に後期から出荷前の肥育牛が1頭死ぬことのダメージの大きさは理解できるでしょう。
 
 
 
 
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