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加地永理奈のコラム
大腸菌性乳房炎に使用する乳房炎軟膏

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2022年6月1日

大腸菌性乳房炎といえば、硬結感のある乳房、水っぽい乳汁という症状が特徴的です。大腸菌性乳房炎は進行が速く、目の充血、脱水、食欲廃絶、起立不能と全身症状がどんどん症状が重くなります。そのため、見つけたときにどのような処置をすれば良いかが結構難しい病気です。

今回は使用する乳房炎軟膏を変えた例についてお話します。具体的には、これまでセファゾリンの乳房炎軟膏を使用していた農家さんに、オキシテトラサイクリン(OTC)の乳房炎軟膏の使用をお願いしました。

その理由は、大腸菌が壊れたときに出す「エンドトキシン」です。大腸菌性乳房炎のときにあらわれる様々な症状は、このエンドトキシンという毒素に由来しています。

セファゾリンの乳房炎軟膏は強力な殺菌性の抗生物質です。これが大腸菌の増えた乳房内に入ると、そこで大腸菌が壊され、大量のエンドトキシンが発生し全身を一気にまわります。すると母牛はショック症状を起こし、起立不能の状態、最悪の場合には数時間で死に至ります。

これを回避するために提案させていただいたのが、オキシテトラサイクリンの乳房炎軟膏です。オキシテトラサイクリンは殺菌ではなく、菌の増殖を抑える働きの抗生物質です。そのためエンドトキシンの大量発生が起こりません。ただ休薬の規制が長いというマイナス面もあります。

乳汁を絞ったらなんか水っぽいが、まだ簡易検査には反応しない、という初期の段階では、まだ大腸菌数も少ないためセファゾリンが有効的に使用できます。しかし、耳が冷たくなり始めたり、乳房が固くなり始めたりと、全身症状が出始めたらセファゾリン以外の選択が必要です。

大腸菌性乳房炎は、とにかく菌と毒素を体内から出すことが一番です。オキシトシンを投与して乳汁を絞ったり、たくさん水を飲ませたりすることで更なる悪化を防ぐことができます。とは言え、冒頭で申し上げたとおり進行スピードの速い難しい病気です。私もまだ治療方法に悩みながら向き合っています。

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