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藤田真千子のコラム
No.35 受胎率向上のために~いろいろなホルモン処置②~

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2022年5月26日

前回はモディファイド・ファストバックのお話でした。今回は、hCGというホルモンを使って2個目の黄体を形成することで黄体ホルモン濃度を上昇させる方法についてです。

②発情後5日目のhCG1500単位の投与
hCGとは?
ヒト絨毛性(胎盤性)性腺刺激ホルモンのことで、作用はLH(黄体形成ホルモン)と同様です。成熟卵胞に作用して排卵させる作用、黄体に作用し黄体ホルモンの分泌を促進させる作用があります。
使い方
発情後5ー7日目に投与すると、第一卵胞波の主席卵胞(※)が高確率で排卵し、2個目の黄体(副黄体)が形成されます。副黄体はプロジェステロン分泌能を持つとされ、血中黄体ホルモン濃度が増加すると報告されています。
受胎率は?
受胎率に与える影響については、研究間で異なる結果となっています。近年では、hCG 投与時の卵巣状態が受胎率に影響を与える可能性が示唆されています。AIにおいて、発情後5日目のhCG投与時に、第一卵胞波主席卵胞が黄体と同側の卵巣に存在する場合、反対側の卵巣に存在する場合よりも受胎率が高くなることが報告されています(Miura et al., 2018)。

黄体側の子宮角先端部の子宮内膜組織の黄体ホルモン濃度は、反対側よりも高いことが過去に報告されています(Takahashi et al., 2016)。このことより黄体と副黄体が共存している場合には、妊娠子宮角において副黄体の局所作用が加わることで、妊娠子宮角の黄体ホルモン濃度が高くなっている可能性が考えられます。
以上より、hCGを使用する際には卵巣状態を調べ、主席卵胞と黄体が同側の卵巣に共存する個体を選択することで効率的な処置になると考えられます。

hCGは抗体ができるのでは?
hCGは分子量が大きいため、短期間に反復投与すると抗体ができてしまい、反応しなくなると言われています。それがどの程度の期間なのか?というのを質問されたことがありますが、1500単位であれば1か月に1回くらいの投与なら問題はないようです。21日間隔の投与は微妙なのかな…?

※第一卵胞波主席卵胞??

(獣医繁殖学 第四版 p72より引用)
牛では1回の発情周期中に2~3回の卵胞群の発育が見られます。この周期的な卵胞群の発育を卵胞波(ウェーブ)と呼びます。多くの小卵胞の中から1つが選ばれ発育を続け、成熟します。この卵胞を主席卵胞と呼びます。通常は第一卵胞波の主席卵胞は排卵せず退行しますが、今回のhCGの処置ではこの卵胞を狙って排卵させています。
 
 
今週の動画
Bovine Papillomatosis 3 牛乳頭腫症3

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