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加地永理奈のコラム
OPUの麻酔

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2022年4月20日

前回のコラムに引き続き麻酔のお話です。
OPUは腟にプローブを挿入し直腸越しに卵巣を保持して卵子を吸引するため、直腸の蠕動を一時的に止める必要があります。また腟壁から卵巣へと針を刺すため、多少なりとも痛みを伴います。他にもOPU中に牛が急に動いて意図しない方向に針を刺してしまうことを防ぐため等の理由から、OPU前に麻酔処置をおこなっています。
麻酔の内容は、キシラジンによる全身麻酔とリドカインによる局所麻酔です。作用機序の異なる鎮痛薬を併用することで、相加的・相乗的に鎮痛効果が得られます。投与方法は2%キシラジン0.5mlを皮下注射、2%リドカイン3~5mlを尾椎硬膜外に注射しています。
尾椎硬膜外注射は受精卵移植や肛門周囲の手術時などにも用いられますが、骨と骨の間に針を刺すため少しコツがいります。尻尾をグイグイと持ち上げて、どの骨まで一緒に動くかで第一尾椎の場所を確認します。そして尻尾と一緒に動く骨と動かない骨の境目に指を当て尻尾を動かすと、そこに隙間があってへこむのがわかります。その隙間が針の挿入部です!背中に対して垂直より若干頭側に針先を傾けて刺します。コツンと当たる感触があったら骨に当たってしまっているので、針の角度を変えてみます。きちんと骨と骨の間に入れば、針先がプスッと靭帯を貫通する感覚があります。そこがリドカインを注入する硬膜外腔です。硬膜外腔は外界より少し陰圧になっているため、薬液がスッと抵抗なく入っていきます。

尾椎硬膜外麻酔が効くと、直腸の蠕動が消失し尻尾の力も抜けます。効かなかった場合には、腸の平滑筋の運動を抑える作用をもつ臭化プリフィニウムを使用します。これは平滑筋にのみ作用するので腸の蠕動は止まりますが、横紋筋で動く尻尾や肛門を閉じる動きは止められません。そのため円滑にOPUを遂行するには、やはり尾椎硬膜外麻酔の成功がカギになります。あとは、尾椎硬膜外麻酔後に徐糞をすると直腸内にガスがたまりやすくなるので、徐糞後に尾椎硬膜外麻酔をするよう意識しています。

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