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松本大策のコラム
ヒューヒューって聴こえない?(気管支狭窄)

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2022年2月28日

 皆様、もう2月も終わりますがいかがお過ごしでしょうか?栃木の北部は鹿児島県人には耐えられない寒暖差です。晴天で7℃くらいまで気温が上がった日の翌朝起きてみると、マイナス4℃で雪が5cm位積もってて、「あ、これはまずいぞ!」と思っていると、子牛の肺炎や低体温の急患の電話がどっとかかってきます。

 低体温の子はたいていの場合環境が寒すぎて、体温が維持できなくなって35℃とかに下がってしまっているのですが、ここで慌てて「うわぁ、暖めてやらないと!」と子牛をお湯につけたりすると、体温が急速に上昇し、血管の中で血液が固まって脳血栓を起こして神経症状を出しながら死んでしまうことがあるのです。
 こういう子には、電気毛布(先日使ったのは130cm×80cmの敷き毛布で1,980円)をガムテープで身体に巻き付けてあげるのが便利です。だいたい理想的な感じで体温が回復していきます。もちろん補液とか症状次第では輸血も組み合わせます。
 電気毛布は水洗いできるので、おしっこによる漏電の心配もなく、再利用も可能です。

 さてこういう子は、低体温を脱出しても肺炎や肺の気管支が狭窄を起こして、人間の気管支ぜんそくのような状態になっている子が多くなってきます。一般的に言う「ウィーズ音」というものが聴診できる状態ですね。
 この状態では酸素の取り込みや二酸化炭素の排出がうまくいかないので、牛さんも元気の回復が難しいです。こういう子牛には、気管支拡張剤や気管内注射、デキサメサゾンなどを用いて気管支の狭窄を除去しようとするのですが、中には大変反応が悪くて改善してくれない子がいます。

 先日もそのような子牛4頭に遭遇し、かねてから考えていた「麦門冬湯」という漢方薬(マツキヨなどのドラッグストアで売っています)を使ってみました。すると、夕方と翌朝の2回投与してもらった後に再診したところ、気管支の狭窄がきれいに改善されてウィーズ音がなくなっていたのです。

 漢方薬というと、慢性病向け、とか徐々に体質改善をして、のようなイメージがありますが、漢方薬の生まれた頃の中国や日本の状況を考えてみると、現代のように慢性病をじっくり治すなんて余裕はなく、あくまで「風邪にルル」的な即効性を求められていたのです。
 材料を考えてみてください。トリカブトを飲ませるとすぐ死ぬくらい、効果が早いでしょ?

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