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藤田真千子のコラム
No.23 フリーマーチン?

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2022年2月24日

ウシではオス・メスの双子のうち92~93%ではメスが生殖能力を持たない、フリーマーチンとなると言われています。

この間、一貫の和牛農家さんでオス・メスの双子だったけど大丈夫そうなら繁殖母牛にしたいという牛がいました。
14か月齢時、直検で子宮・卵巣は異常なく、腟長も短くありませんでした。同期化で授精をおこなったところすんなりと受胎したので、この子は正常なメスだとわかりました(^o^)。

<フリーマーチン発生原理>
ウシでは双子の場合、そのほとんどが二卵性の双子です。二卵性では2つの卵子が排卵し、それぞれが精子と受精し、受精卵が2つできます。
ウシの双子では生殖腺が分化する妊娠40~50日より前に、胎膜の血管が繋がり血液の交流が起こるケースが多いと言われています。この時、オスとメスの受精卵が着床していると、オス側の血液成分の影響によりメスの生殖腺は正常に分化できません。発生原理については議論途中ですが、ホルモン説(オス側からの性決定因子が原因)と細胞説(オス由来のXY生殖細胞が原因)によって説明されています。
★血管が繋がらなかった場合や卵巣の分化後に血管が繋がった場合は、フリーマーチンにはなりません★

<メスだけが異常になるの?>
オス個体は明らかな形態異常は見られませんが、オス同士の双子の個体に比べるとテストステロン分泌能が低く、繁殖能力は低いと言われています。

<ウシ以外はフリーマーチンにならないの?>
ヒツジの双子では血管吻合は1~64%の範囲で起こりますが、細胞移動は少なくフリーマーチンになる確率は約1%と報告されています。ブタ、ヤギでも報告はありますが、稀だそうです。ヒトでは二卵性の場合、別々の胎盤を持っているのでお互いの血流が影響しあうことはありません。一卵性の場合は胎盤を共有することが多いようですが、遺伝情報は同じなので問題ありませんね。

<生まれたのは1頭だけど…>
・オスの胚死滅:双子だったけど途中で片方が流れてしまったという場合は注意が必要ですね。授精する頃になって判明するかもしれません。
・無形無心体:丸い毛玉のような見た目で、双子の一種です。他方の正常な胎子が生まれる際にその胎膜に臍で付着して出てきます。「歯や骨組織を含んでいることもあるが、通常は性腺の発育は無くフリーマーチンになる可能性は低い…」と教科書的には書かれています。しかしフリーマーチンのケースもあるので、検査をおすすめします。

なんだか小難しい内容になってしまいました(-_-;) ウシだけ高頻度にフリーマーチンになるのは不思議ですね…とはいっても残り7-8%は正常なので、残したい血統ならば出生直後に検査してみるとよいと思います!
参考:獣医発生学、獣医繁殖学
 
 
今週の動画
「死亡した牛の心臓」

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