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松本大策のコラム
蹄が伸びやすいけど…。

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2021年12月13日

 松本です。栃木って意外と夕立と地震が多くて驚いています。朝晴れてたから、外に洗濯物干して、診療終わって帰ってみるとずぶ濡れ(-_-)、なんてことがたまにあります。

 ところで、肥育牛や育成子牛で何か蹄が伸びやすくて困っている、というご相談をお受けすることがあります。とくに肥育牛では、蹄が伸びるだけでなく、食欲が低下してお腹が小さくなって来た、という状態が散見されますし、子牛の場合は軟便や下痢が続くことも多いようです。

 これらの原因は、濃厚飼料のNFC(デンプンや糖)の発酵速度、つまり第一胃で微生物による分解を受けてVFA(揮発性脂肪酸:牛さんのエネルギー源で酢酸、プロピオン酸、酪酸の3種類のお酢の仲間)に変化するスピードが、その牛さんに合っていないことが大半です。牛さんはデンプンや糖を第一胃で発酵させて、VFAを第一胃の粘膜絨毛から吸収しますが、牛さんによってその吸収速度が異なるのです。

 一般に気高系の遺伝の強い牛さん(後足の中足が太く、耳が大きく目も大きい)では、吸収速度が速く、田尻系の遺伝が強い牛さんの場合はVFAの吸収速度が遅い、という特徴があります。気高系の場合は、小麦粉とか大麦圧片などの発酵速度の速い(つまり第一胃でVFAが発生するスピードが早い)飼料でも、第一胃粘膜がぐんぐんVFAを吸収できるから問題ないのですが、田尻系の場合は、VFAの吸収速度が遅いので、麦系の発酵速度が速く、VFAの発生速度が速すぎると、VFA(酸)の吸収が追いつかずに第一胃内が酸性になってしまいます。これが行き過ぎるとルーメンアシドーシス(第一胃の胃酸過多)となって、酸に弱い菌が死滅します。このとき、バイ菌の細胞壁の成分が漏れ出てしまうのですが、この漏れ出てくるのがエンドトキシンといって、さまざまな炎症を引き起こす物質なのです。
 その影響で、蹄の血管に炎症が起きて蹄の伸びが早くなったり、ひどいときは蹄葉炎にもなったりします。また、胃酸過多の状態ですから食欲も低下して腹囲も小さくなりますし、子牛の育成期では、アシドーシス性の下痢が続くことがあるのです。

 繁殖母牛でも、受胎率が低下して足を痛がる、という稟告で牛群の診察を依頼されたりします。母牛の場合、1日たった1kg程度の給与しかされない濃厚飼料を、別の銘柄やメーカーに代えただけでこれらの症状が起こる場合があるのです。

 対策としては、まず鉱塩に重曹を含ませてある「鉱塩アルカリックス:ゼノアック」を設置してみます。重曹はご存じの通り酸性を中和するアルカリ剤です。以前は重曹粉末や重曹をルーサンペレットにしみこませてあるものを与えていただいていたのですが、鉱塩を「舐める」という行為によって、よだれをたくさん飲み込むことになり、そのよだれの中に重炭酸イオンという、酸を中和するものがたくさん含まれているので、こちらの方がより効果的だという調査があり、いまではもっぱら鉱塩アルカリックスをお勧めしています。
 これで効果がない場合は、配合飼料を変更するか、飼料設計を変更することになります。

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