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笹崎直哉のコラム
飼槽の管理

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2021年12月7日

 先日、広島県で肥育牛の疾病と飼養管理をテーマに講演させて頂きました。今回はリモート複合型(会場とオンライン参加が選べる方式)で発表を務めさせていただきました。ベテランの農家さんを前に緊張で胸がドキドキでしたが、今までの診療で得られたものを私なりの表現方法でスライドや動画に組み込み紹介させて頂きました。最近はコロナ禍ということもあり、対面でお話する機会がほとんどなかったため、とても貴重で有意義な時間を過ごすことができました。本当にありがたい限りです。

 さて今回は牛さんの飼槽に注目したいと思います。お伝えしたいのは大きく分けて2つです。1つ目は飼槽の高さ、2つ目は残飼(食べ残し)についてです。農家さんの事例を紹介しつつお話していきますね。

 ちょうど1年程前、とある肥育農家さんが飼槽の工事を行っているのを拝見し、個人的に気になったので理由について尋ねました。「飼槽が低くて餌を食べにくそうにするから、位置を高くしようと思って」とのことでした。たしかに導入~肥育前期の牛さんはまだしも、中期以降の牛さんは頭を下げ、姿勢が若干前のめりになり餌を食べていました。

 本人いわく「本当は牛の心臓の位置まで底上げできたら理想だったが、そこまでは高くできなかった」とのことでした。

 変更後、やはり食べやすくなったのか牛さん全体の乾物摂取量は増加したとの報告をもらいました。よくよく考えてみると子牛でも飼槽にコンパネを敷いて餌を食べやすくなるように工夫が施された繁殖農家さんをたまに見かけます。普段あまり意識していない点かもしれませんが、これを機に見直してみるのも良いかもしれません。一方で飼槽が万全な状態でも牛床が高くなり過ぎると食べるのが難しくなるので注意が必要です。しっかりと定期的に敷料交換をしてあげることがポイントです。

 次に残飼についてです。「梅雨や夏の時期は牛舎の臭気、特にアンモニア臭が気になる」という悩みをもった農家さんがいました。アンモニアは鼻腔粘膜を傷つけてしまうので結果的に呼吸器病を招く恐れがあります。したがってその発生を抑え、空気をクリーンな状態にしておくことが呼吸器病の予防のポイントです。実際に牛舎を確認しましたが牛さんの便性状や換気状況など特に問題なかったのですが、気になったことが1点ありました。それは牛床に残飼が混ざっていたことです。

 農家さんを尋ねると、どうやら配合飼料を飽食にしており翌朝余ったものをそのまま部屋に捨ててしまっているとのことでした。配合飼料にはタンパク質が含有しているので、アンモニアの発生源となる可能性が十分考えられます。湿気が強い時期は特に腐敗が進みやすいので、これが臭気の原因なのではないかと判断し、残飼を部屋に捨てるのをやめてもらいました。すると徐々に改善していき、アンモニア臭があまり気にならなくなりました。

 農家さんが普段から欠かさずやられている飼槽の清掃や餌の掃き寄せだけでも手間がかかり大変なのですが、いつもと違った視点で飼槽をチェックしてみると意外にも新たな発見があるかもしれません。

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