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加地永理奈のコラム
PCR検査③

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2021年11月17日

前回まで、PCRが微量のDNAから特定の領域を複製、増幅させる技術であることをお話しました。今回は増幅させたDNAをどのように測定しているかについてお話します。
PCRによりDNAを増幅させても、そのままでは無色透明の液体です。実際にDNAが増幅されているかどうかを可視化する方法として、アガロースゲルを用いた電気泳動法というものがあります。
アガロースとは海藻からとれる寒天で、それで立体の網目構造のもの(ゲル)を作成し、そこにPCRで増幅させたDNA断片入りの溶液をおきます。そこへ電気を流すと、マイナスの性質を持つDNAはプラス極の方へと徐々にアガロースゲルの中を移動していきます。このとき、小さなDNA断片はアガロースゲルの網目構造を素早くすり抜けていくのに対して、大きなDNA断片はゆっくりと移動していきます。こうしてPCRで増幅させたDNA断片を長さの違いによって分離し、おおよそのサイズを確認することができるのがアガロースによる電気泳動法です。

ただ可視化するまでにはもうひと作業あり、電気泳動した後のゲルを色素により染色する必要があります。ここで用いられる色素は、DNAの二重らせん構造に結合して光るという性質を持ちます。これによりアガロースゲル上の2本鎖DNAのある場所が光るようになるため、PCRによって目的のサイズのDNA断片が増幅できているかを確認することができます。


実際の写真(左はサイズの指標、右4つがPCRで増幅したDNA断片)

このように、電気泳動を行った結果を見るまで目的のDNAが増幅できているかどうか分からないのがPCRのドキドキポイントです。しかし、PCRの反応中にDNAが増幅できているかどうかを可視化できる方法が実はあります。それがリアルタイムPCRです。リアルタイムPCRは、PCR反応中の反応液をサイクルごとに蛍光カメラで撮影し、その発光強度の変化をグラフで示してくれます。新型コロナウイルスのPCR検査では主にこのリアルタイムPCRが用いられているようです。

以上、PCR検査について紹介してきました。獣医師は牛に直接ふれて治療するだけでなく、このような実験的な作業も行うことがあります。

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