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加地永理奈のコラム
PCR検査②

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2021年11月10日

前回のコラムで、遺伝子を増幅させるPCRにはサーマルサイクラーという専用の機械を用いるというお話をしました。今回はそのサーマルサイクラーの中でどのような反応が起きているのかについてお話します。
PCRは生体内のDNA複製の過程を、サーマルサイクラーを用いた温度の上下により再現しています。どのように対応しているか比較してみましょう。

まず私たちの生体内でおこなわれているDNA複製の過程です。
細胞が分裂する時期になりDNAの複製が必要になると、ヘリカーゼという酵素がDNA鎖の水素結合を切断し、DNAが2本鎖から1本鎖になります。そして複製する箇所にRNAプライマーという目印が結合し、そこへDNAポリメラーゼが結合、新しいDNA鎖をつくっていきます。

この過程をPCRに置き換えると以下のようになります。
① 熱変性(加熱)
細胞内ではヘリカーゼによりDNAの二重らせん構造がほどけましたが、PCRでは95℃の高温に加熱することで2本鎖DNAの水素結合が外れて1本鎖になります。1サイクル目では長めに加熱してもとのDNAの二重らせんを完全にほどく必要があります。2サイクル目以降は増幅した断片をほどくだけになるので、時間は30秒程度で次のステップにうつります。

② アニーリング(冷却)
2本鎖がほどける高温状態から、冷却し一定の温度(50~65℃)にまで下げると、目印となるプライマーが結合できるようになります。プライマーは、複製したい目的の箇所に結合するよう人工的に作成したDNAプライマーを用います。

③ 伸長反応(加熱)
次にDNAポリメラーゼが活動する温度(68~72℃)にまで再び加熱します。すると相補的な配列のDNAが続々とつくられていきます。PCRに用いるDNAポリメラーゼは、反応中の高温に耐えられるよう、温泉にいるような好熱性の細菌から得られた耐熱性ポリメラーゼが使われています。

以上を簡単に図にまとめました。このように、PCRは生体内のDNA増幅の過程を再現し、微量のDNAから自分が求める箇所を短時間で増幅させる技術です。

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