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加地永理奈のコラム
PCR検査①

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2021年10月27日

今回からPCR検査についてお話します。新型コロナウイルスの検査方法として有名になりましたね。私も大学の卒業研究でPCRを用いたため、親しみがあります。

PCRとは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略で、特定の遺伝子領域を増幅させる科学技術です。これを検査に用いることで、ウイルス等の病原体がそこに存在しているかどうかを調べることができます。このPCR検査は牛でも用いられており、様々な感染症の感染の有無や病原性の有無を確認できます。また、牛、豚、鶏、馬、羊、それぞれの動物種に特異的なDNA配列を検査することで食肉製品の肉種鑑別も可能です。他にも犯罪捜査や考古学分野など幅広く活用されている技術です。

PCR検査ではまず検査対象の鼻咽頭ぬぐい液や血液、糞便といった検体からDNAを抽出します。抽出されたDNAサンプルは様々な試薬を混合した反応液に入れられます。反応液の中には、増幅したい目的の遺伝子領域に結合するDNAプライマー、DNAの鎖を合成する酵素であるDNAポリメラーゼ、新しく合成されるDNAの材料となるヌクレオチドなどが含まれています。この反応液をサーマルサイクラーという専用の機械を用いて加熱→冷却→加熱の過程を繰り返すことで目的のDNAを増幅します。DNAはこの過程1サイクルで2倍に増えるので、10サイクルでは計算上2の10乗で1024倍になります。多くの場合はこの加熱と冷却を30サイクル繰り返し、実際には数百万倍まで増幅させることが可能です。

この検査にはマイクロ単位で試薬の操作や丁寧な温度管理、コンタミネーションに対する細心の注意が必要となります。特にコンタミネーションに関しては、検査対象のDNAサンプルがわずかでも汚染されれば、それが増幅し偽陽性となってしまう可能性があります。また検査結果が陰性の場合にも、生体内の病原体の存在を否定することはできません。ウイルスが検出以下の極少量であった可能性や、たまたま採取した検体の中にウイルスが入っていなかっただけという可能性が残ってしまうからです。屁理屈みたいですね笑

つづく

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